国と ヘッダー

持続可能な灯りでヨーロッパを繋げ〜イギリス-ベルギー国際連系線プロジェクト〜

世界的に脱化石燃料の流れが加速している。とくにヨーロッパにおいては環境に対する意識が高く、各国で風力や水力、太陽光、バイオマス発電など再生可能エネルギー施設の建設を推進している。

出力が不安定な再生可能エネルギーを域内の国家間で融通し合うことで、 需給バランスの調整と効率的な活用を目指すのが「スーパーグリッド構想」だ。 この構想に基づき、ヨーロッパではすでに多数の国際連系線が運営を開始している。

なかでもイギリスは、世界に先駆けて電力自由化を実現した国だが、そのエネルギー源の大部分を自国の石炭や石油、天然ガスといった化石燃料に依存していた。しかし、これら化石燃料の生産量減少に伴い輸入国に転じてからは、世界的な燃料価格高騰の影響もあり、電気料金が上昇。さらに、EUでは2020年までに「温室効果ガス排出量を1990年比で20%削減」「EUで使用するエネルギーの20%を再生可能エネルギーから供給」という構想があり、化石燃料に頼らない安全かつ安価な電力供給が課題となっていた。

一方ベルギーでは、再生可能エネルギーの新たな供給先として、イギリス市場に大きな期待を寄せていた。

ベルギー発の再生可能エネルギーを利用しCO2削減に貢献、そして、イギリスに安定かつ安価な電力を供給すること。

これが今回紹介するイギリス-ベルギー国際連系線プロジェクトの目的である。

イギリス地図
イギリス地図
イギリス側の海底ケーブル上陸予定地
イギリス側の海底ケーブル上陸予定地

海から陸へ。国から国へ。電力が行き交うヨーロッパ

全長141.5km。
ビッグプロジェクトが動き出す

ロンドンから特急電車で約1時間、グレートブリテン島の南東部に位置するケント州ラムズゲート。ここから東に海を越えたところに、ベルギーのゼーブルージュという港町がある。その2つの街を繋ぐ送電ケーブル敷設工事がいま進められている。

事業主は、Nemo Link社。同社は、送電事業者であるNational Grid社(イギリス)とELIA社(ベルギー)との合弁会社で、2019年に完成予定のイギリス-ベルギー間の連系線を敷設し、少なくとも25年間運営することを目的に設立された。敷設される送電ケーブルは、同社の事業の根幹となるものだ。

イギリス-ベルギー国際連系線は全長141.5km。海底部分だけでも130kmに及ぶビッグプロジェクトである。送電ケーブルシステムの設計、製造、敷設工事、保守・メンテナンスをトータルに受注したのが住友電気工業(株)(以下、住友電工)と(株)ジェイ・パワーシステムズ(以下、JPS)の住友電工グループだ。ヨーロッパ以外の企業としては、はじめてヨーロッパの国際連系線の受注となった。

イギリス-ベルギー国際連系線は両国において将来のエネルギー政策を左右するプロジェクトであり、再生可能エネルギーを主とする電力が行き交う持続可能な未来を切り開く一歩といっても過言ではない。

2019年の完工を目指し、いよいよ海底敷設工事が始まる。さまざまなハードルを乗り越え受注に至った本プロジェクトの経緯とその意義を特集する。

イギリス-ベルギー国際連系線プロジェクトの主要企業と役割

Nemo Link社 イギリスNational Grid社とベルギーELIA社の合弁会社。本プロジェクトの運営主体。
住友電気工業(株)・(株)ジェイ・パワーシステムズ ケーブル製造、システム設計、施工管理などプロジェクト全体の責任を負う。ジェイ・パワーシステムズは今回のプロジェクトで採用された世界トップの性能と汎用性を持つXLPE絶縁材料を開発。
Balfour Beatty社 イギリスの建設会社。イギリス・ベルギー側の陸上部分の敷設工事を担当。
DeepOcean社 イギリス・ダーリントンに本拠を置く海洋工事会社。海底ケーブルの敷設工事を担当。

それはゼロからのスタートだった

「このまま1件も受注できなかったらどうなるのだろう。」2011年、ロンドン。当時、古橋俊之は、勝算の見えない戦いを続けていた。洋上風力発電などの再生可能エネルギーの施設建設が進むヨーロッパでは、その電力を海から陸へ、国から国へ送電するための送電ケーブル需要が増大しており、住友電工グループはヨーロッパ市場への参入を決めた。その市場開拓を任せられたのが古橋だった。

本プロジェクトの営業担当 古橋俊之
本プロジェクトの営業担当 古橋俊之

しかし、ヨーロッパの電力ケーブル市場における住友電工グループの知名度、そして実績はゼロに等しい。技術や工事の関係者とともに月に何度もヨーロッパに出向き、送電事業者を訪問するものの、担当者に会うことすらできず、門前払いのような扱いが続いていた。手探りの営業活動ではあったが、ヨーロッパにはマーケットが確実に存在することはわかっていた。そして、住友電工グループには他メーカーにない高圧直流送電ケーブルの技術がある。この2つが古橋の支えだった。受注できないもどかしさを感じながらも、「突破口は必ずあると信じていました」と語る。

2011年末、古橋はイギリス-ベルギー国際連系線プロジェクトの入札情報を掴んだ。プロジェクトの内容を見ると、住友電工グループの直流ケーブル技術を活かせる可能性を秘めている。古橋率いるチームは、お客様の元へ足しげく通い、住友電工グループの技術、実績、財務力、企業理念などを総合的に紹介した。しかし、一向に入札参加のオファーは来ない。「当社はまだヨーロッパ市場での実績がない。ケーブルメーカーとしての信頼を得るには、日本に実際に足を運んでもらって、日本の文化に触れてもらったり、製造現場を直接見てもらい、日本について、そして当社について知っていただくことが一番だ」、こう思った古橋は、ケーブル工場への視察ツアーを敢行した。こうして営業・技術・工事部門が全社一丸となって対応することにより、お客様との信頼関係は徐々に形成されていった。そして、ようやく、入札参加への声がかかったのである。2012年、入札に参加できる資格審査を通過し、競合メーカーと同じスタートラインに立った。いよいよ入札に臨む。

ベルギー側のケーブル上陸予定地は海水浴場。来年の海開きまでに工事を完了する必要がある
ベルギー側のケーブル上陸予定地は海水浴場。来年の海開きまでに工事を完了する必要がある

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