プロジェクトid 社会課題への挑戦 水処理技術が創る“水の惑星”の未来

住友電工に課せられた使命 〜ポアフロン®のプレゼンスが加速する〜

CPCの水処理施設の夕景。絶え間なく水処理は行われていく

台湾水処理市場に風穴を開けた 受注決定で起こった歓喜の渦

CTCIのポアフロン®採用は決定した。だがそれでCPCへの水処理施設導入が決まったわけではない。大型案件の場合、それまでの実績を重視する傾向があるからだ。ポアフロン®モジュールには確たる実績はない。あるのはパイロット試験におけるデータのみである。さらに問題だったのは、エンドユーザーであるCPCが、この時点ですでに米国大手企業の膜を基準とする仕様・スペックを採用していたことである。その問題をクリアするために、膜の決定権限を持つ博士研究員にアプローチしたのだった。パイロット試験のデータを提示し、ポアフロン®の特性を訴求。「スペックインできるまで仕上げたことで応札を可能とした」(前出・張)。そして2012年夏、入札の結果、受注が決定。前線で奮闘した張をはじめ、スタッフ全員に歓喜の声が上がった。米国大手企業に勝ったことは、台湾の水処理市場に大きな風穴を開けたことを意味する。さらに一日6,000m3の、しかも難易度の高い含油産業排水処理プロジェクトの受注は、高いレベルでの実績となるものであり、その後の拡販活動に弾みをつけた。住友電工グループ・水処理事業のエポックメイキングとなる大型受注だった。

屋根で覆われた水処理施設の上部。この下にポアフロン®モジュールが設置されている
屋根で覆われた水処理施設の上部。この下にポアフロン®モジュールが設置されている

浄化性能を持続させる 「お客様のために」という姿勢

2013年後半、試運転が始まった。この時期、張と共に現場に入ったのが、当時、膜の運転技術を担当していた住友電工グループ・華友材料科技股份有限公司の田中育である。張と田中はCTCIの施工現場に約3週間張り付き、正常運転を実証。こうして水処理施設は2014年1月、本格稼働を開始した。運用において重要なのは「膜をできうる限り新品に近い状態に保つ」ことである。それが浄化性能を持続させるポイントとなるからだ。そしてそのために必要な作業が定期的なメンテナンス、薬品洗浄である。だが約5か月間の安定稼働後、問題が起こった。パイロット試験時と同じく、膜に目詰まりが発生したのだ。

「運転マニュアルに則った適切なメンテナンス方法をCPCと十分に共有できていなかったことが原因でした。私たちで膜を洗浄して新品に近い状態に回復させ、洗浄の必要性を示しました。お客様の理解と納得を得るため、ベストな顧客対応を実践しました」(田中)。

その後も定期的に訪問。洗浄についても技術フォローを続けることで安定稼働が実現したのである。

華友材料科技股份有限公司 田中育
華友材料科技股份有限公司 田中育
排水を浄化するポアフロン®モジュール。石油化学のプラントの排水処理では特に効力を発揮する
排水を浄化するポアフロン®モジュール。石油化学のプラントの排水処理では特に効力を発揮する

顧客ニーズに的確に対応した 洗浄メンテナンスビジネス

ポアフロン®モジュールが導入された水処理施設は、その後安定稼働を継続して現在に至っているが、稼働後4年間の汚れが膜表面に蓄積し、処理能力が低下しつつあった。定期的な洗浄は実施してきたが、問題はどのような薬品で洗浄したかである。ポアフロン®は強酸性の薬品使用にも耐えられるが、米国大手企業の膜を基準として設計されていたCPCの施設での使用は困難だった。つまり、CPC施設の制約により弱酸性での薬品洗浄しかできなかったことが、目詰まりによる能力低下発生の要因の一つであった。そこで2017年、工場外で強酸性薬品による洗浄を行う、という新たなメンテナンスビジネスを立ち上げた。こうした一連の取り組みに対し、CPCの石化事業部 執行長である黄順發氏は、次のように語る。

「私たちは、排水はすべて再利用して水不足問題を解決したいと考えています。それに対して、住友電工グループは高性能な膜モジュールの提供のみならず、洗浄や排水分析など多彩なサービスで対応してくれています。今後も適切な膜モジュール洗浄の実施、そしてさらなるコストダウンの取り組みに期待しています」

廃水処理工場長の潘昆松氏や現場の工程師である温徳財氏も「住友電工グループの力、ノウハウを信頼し期待している」と口を揃える。確実な評価を積み重ね、2017年末には、CPCの排水処理量増加に伴う膜モジュールの追加受注を果たした。また、CPCの別工場の新規案件の引き合いも得ることができた。

台湾中油股份有限公司・石化事業部 執行長 黄順發氏
台湾中油股份有限公司・石化事業部 執行長 黄順發氏

再びビッグプロジェクトに挑む ポアフロン®モジュール
単体ビジネスからの飛躍

住友電工グループはCPCで積み上げた技術的成果、実績を北米の水処理関連学会で発表。そこで引き合いを得て、米国の石油精製会社、食品加工会社から受注、納入し、ポアフロン®モジュールは米国進出を果たした。さらに、台湾においてもCPCにおける実績を元に、大型下水処理施設への導入プロジェクトが進んでいる。CPCへの導入時同様に、複数のサイトでパイロット試験を実施中だ。またその拡販戦略も新たなフェーズに入りつつある。

「従来は、ポアフロン®モジュール単体ビジネスでした。しかしこれからは、事業拡大に向け、特長を活かせる最終市場へのアクセスや主体的なビジネスモデルの構築が重要です。地域を絞り、膜モジュールを組み込んだシステム、サービスをトータルに提供するビジネスとして取り組んでいく考えです。一段上のステージで事業を進めていきます」(前出・森田)。

台湾における水処理事業は、CPCプロジェクトを起点として、一層の飛躍が見込まれることは間違いない。

台湾中油股份有限公司・廃水処理工場長 潘昆松氏
台湾中油股份有限公司・廃水処理工場長 潘昆松氏
台湾中油股份有限公司・工程師 温徳財氏
台湾中油股份有限公司・工程師 温徳財氏

メンテナンスで洗浄されるポアフロン®モジュール

巨大市場、国市場の開拓に挑む
〜住友工水処理技術の核心、中国・中山〜