住友電工の流儀 第七回 三浦 晃広 研究開発本部 研究企画業務部 業務部 横浜業務グループ

想像力と創造力を武器に 卓越した技能が最先端の光通信用デバイス開発を支える

光デバイス実装24年間の経験 進化する光通信の送受信器

私が勤務する横浜製作所は通信ケーブルの関東地区の拠点として開設され、現在では光ファイバ・ケーブル、光コネクタ、融着接続機、光アンプや光・電子デバイスなど、情報通信関連製品の開発・製造拠点となっています。私は入社後、電力ケーブルの製造現場に配属されましたが、転機が訪れたのが入社8年目の1986年のことでした。横浜製作所に新たにデバイス事業が立ち上がり、その製造に関わったことです。さらに1994年に光通信の送受信器の製造に関わる中で、光デバイスの実装に関わる研究開発業務の一端を担うことになりました。といっても、それまでまったく関わっていない分野であり、素人同然の状態。一から学ぶ必要がありましたが、私にとっては新しいことへの挑戦であり、興味を強く惹かれワクワクしたのを覚えています。以来、24年にわたり光デバイスの開発業務、そして実装に取り組んできました。

各種光製品の中でも、当社が開発に力を注いでいる製品の一つが光トランシーバです。これは、送信側で電気信号を取り込んで光信号に変換し、受信側で受けた光信号を電気信号に変換する送受信器であり、光通信の通信品質を決定付ける重要な役割を果たしています。この光トランシーバは光通信の高速大容量化に伴い、小型化、低消費電力化、低コスト化、さらには伝送速度の向上など年々進化してきました。当社の製品では、たとえば「100Gbit/s伝送用超小型光トランシーバ」があります。これら新製品の特性を最大限に引き出すために重要な技術が部品間の最適なワイヤボンディングです。

±5㎛の高精度の世界で展開する ワイヤボンディングという職人技

私は、光トランシーバなど光製品の量産化に向け、部品間のワイヤボンディングの 検討、それに伴う部品レイアウト等を担当しています。ワイヤボンディングとは、直径20㎛程の極細金ワイヤを用いて、回路基板上の電極と電子部品の電極を電気的に接続させることです。部品が持つ特性に、ワイヤの長さや接続は大きく影響します。すなわち、ワイヤボンディングは光トランシーバの性能、そして通信の品質に深く関わってきます。このワイヤボンディングは、もちろん設計図を基に組み立てられていくわけですが、年々高集積化・高密度化する各部品の特性を確認しつつワイヤボンディングを最適化することは、実は自動機では対応できません。私は24年の経験の中で培った技能と知見によって、±5㎛以内の高精度で極細金ワイヤの接続を行い、量産化の検討を行っています。ポイントは最適な接続の形状を作り、ワイヤ抵抗を極小化することであり、極めて難易度が高い技能です。

ワイヤボンディングの世界は奥が深く、平面配置された部品間や段差がある部品間、あるいは離れている部品間などのアクロバティックな接続に加え、高周波信号用のリボンワイヤや三極間ステッチワイヤなど、より難易度が高い特殊な接続方法まで多様です。その一方で明確に標準化された方法があるわけではなく、経験から部品や装置のクセを見抜き“手技”によって最適化を実現していく作業になります。このワイヤボンディングと部品レイアウトによって量産仕様が決定し、製品は市場に送り出されることになります。この世界では、ワイヤを接続することを“打つ”と言いますが、打つ技能は職人的世界であり、その高度な技能が評価されて現在は全社で1 名の「マイスター」という名誉ある認定を受けました。

直径20㎛程の極細金ワイヤを用いて部品間のワイヤボンディング 直径20㎛程の極細金ワイヤを用いて部品間のワイヤボンディング
直径20㎛程の極細金ワイヤを用いて部品間のワイヤボンディング

後進を育成するというミッション 技能の進化に終わりはない

全社マイスター認定は、単に技能を評価されたことによるものではありません。私の重要なミッションの一つに後進の指導・育成があり、その取り組みに対する評価も含まれています。私の指導者としての役割は技能伝承であり、全社エキスパートに認定された2010年から8年間で、4人への技術伝承を実践。全社マイスターと認定された今も、その取り組みは継続しています。人を育てることにおいて最も大切なことは「我慢」。限られた時間の中で指導していると、どうしても自分で手を出したくなる場面が少なくありません。しかし、そこは手を出さない我慢が必要です。初めはできないことが当たり前であり、失敗も含めて本人が経験することが大切だと感じています。経験しなければ技能は身に付きません。私が培ってきた技能を多くの人が共有し、さらにそれを継承していくことが、当社光デバイス製品が市場で高く評価されることに直結すると確信しています。

最近は、これまで培った技術を活かし、フルカラーレーザモジュールの開発に関わりました。これはモバイル型ロボット電話のプロジェクタ光源に採用された製品。一般消費者に近いところに製品を届けることができたことに、技術者としての仕事に新たな喜びを実感しました。私の取り組んできたワイヤを打つ世界は手技であるからこそ、「想像力と創造力」が求められると感じています。最適なワイヤボンディングを実現するために、想像力と創造力を駆使し、最後まで粘り強くあきらめない姿勢で取り組むこと、それが私の仕事の流儀です。技能の進化に終わりはありません。また私の技能は100%の完璧さではありません。今後も、知識を習得し技を磨き、技術者としてより高みを目指して精進していきたいと考えています。

後輩の指導には熱が入る
後輩の指導には熱が入る

PROFILE

三浦 晃広Akihiro Miura

1979年 住友電気工業株式会社 入社
横浜製作所 電力ケーブル部門配属
1986年 研究開発本部 横浜研究部
半導体プロセス・製造担当
1994年 研究開発部門 業務管理部 横浜業務課
光デバイス開発業務担当、現在に至る
2010年 全社エキスパートに認定
2018年 全社マイスターへ昇格