私は入社後、ワイヤーハーネス製造部門の組立ラインで、モノづくりに従事してきました。私に最初の転機が訪れたのは、入社10年目、27歳の時です。ラインリーダーとして仕事の面白さを実感していた時期でした。そんな時、上司から米国への海外出張を強く勧められたのです。ミッションは現地の従業員への作業指導や改善活動を通じて、品質の安定、生産性の向上を図ることでした。最初は、「なぜ私が?」と驚きました。同時に感じたのが、「言葉も通じない中で、果たして自分にやれるだろうか?」という大きな不安。そんな中で現地に飛び、根気よく現地の従業員と対話を重ね、現状の課題を共有し、その解決のための技能の指導や作業改善を進めました。嬉しかったのは、現地の従業員が私を受け入れ、私の意思を理解してくれたことです。およそ1ヵ月の滞在でしたが、着実に品質は安定し生産性は向上。「海外でもスキルがあればやっていける」という自信、確かな手応えを得た経験でした。この海外出張を契機にその後、タイ、中国、ベトナム、インドネシア、カンボジア、フィリピン、ルーマニア、ポーランド、エジプト、南アフリカの各工場に出向いて、現地従業員への指導を続けてきました。一度で終わることは少なく、何度も訪ねることになりますから、これまで70回ほど海外に出向いています。
各国で価値観や文化の違いに戸惑いつつ貴重な経験を重ねてきました。中でも、強烈な記憶としてあるのがルーマニアの工場です。床に多数の部品が落ちていたり、物が乱雑に置かれていたりと、整理整頓に問題がありました。そこでまず仕事の効率を高める基本的な整理整頓から始めたものの、賛同、共感を得られず、自分たちの今までのやり方があると、なかなか浸透しませんでした。さらに効率化のために1 人分の作業を減らすと、その人の仕事を奪うのかと軋轢が生じました。またトップである工場長の指示しか聞かないのが現状でした。そこで工場長を巻き込もうと考え、率先垂範(そっせんすいはん)して掃除や整理整頓、修繕などに取り組み、ルールを決め、それを順守することの重要性を工場長に訴えていきました。その熱意が通じ、やがて従業員にも伝播。少しずつ意識や行動に変化の兆しが現れたのです。その頃から私たち日本人(6名の部下を引率)を受け入れてくれるようになっていきました。日本とルーマニアを複数回往復すること2年、当初の目的であった品質の安定、生産性向上が実現。やり遂げたという、一つの達成感を得た経験です。
現在、住友電装は世界31ヵ国でワイヤーハーネスの製造・販売事業を展開しています。「世界同一品質」を追求しており、全世界の工場の合言葉でもある「ピカピカ運動」を推進しています。これは、心、行動、技能、設備、工場のピカピカが、ピカピカの製品を生み出すという当社のモノづくりの基本理念。ワイヤーハーネスという製品は、そのほとんどを人の手でつくり上げていく「労働集約型製品」という特徴があります。だから、製造の現場は一人ひとりの従業員の力量にかかっています。ピカピカの製品、つまり高い品質を決定づけるのは「人」です。「人がモノをつくる」、それが私の指導者としての原点。まずは相手の文化や価値観、考えを理解することが極めて重要です。大切なことは、日本文化などの押し付けや「教えてやる」という態度ではなく、同じ目線で考え、相手の立場に立ち、話を聞くこと。そしてその国に合わせた現地の教え方を見つけ、一緒にやる。「やってみせて、やらせて、成功体験させる」ことが、私の指導法です。
ちょうどルーマニアから帰国した頃、主任へ昇格しました。それは私にとって嬉しいキャリアパスではありませんでした。というのも、自分には主任のミッションを果たせる自信がなかったからです。実際、主任の仕事はそれまでの業務とは大きく異なるものでした。技能や作業の改善向上の取り組みだけではなく、5つの製造ラインの責任者として、人やコストの「管理」、つまり工場運営のマネジメントを求められたのです。困難で辛い時間が続いたものの、「新たな挑戦」と考え直し、主任補佐と協力しながら工場管理の手法を習得し、自分なりのやり方を実践していきました。気付いたのは、どんな立場になっても基本は変わらないということ。それは対話を通じて相手を理解し、自分も理解してもらう。そこで生まれる信頼関係が、ピカピカのモノづくりにつながるという確信でした。
私は入社以来、一貫して製造部門に在籍して指導者として世界を飛び回っていましたが、現在は今までの製造現場の知見を生かし、量産開始の準備や新規車種の検討などを担当しています。たとえば、新規車種立ち上げにともなう新たなワイヤーハーネス製造ラインの設計。机上だけでは見えない課題や重要なポイントを見出し、それを設計に織り込んでいくことで、安定的稼働を目指します。直近では、フィリピンの工場の製造ライン立ち上げに取り組みました。もちろん私のような指導者を育成することも、現在の重要な役割になっています。私が仕事をする上でのモットーは、「明るく楽しく元気よく!」。これは全世界共通であり、仕事をする上での基本であると思っています。
住友電装は、人がモノをつくる会社です。人づくりはモノづくりに直結します。振り返れば、これまでの私の取り組みは「人づくり」だったと思います。だから相手を理解することを大切にしてきました。リーダーに求められることも「人づくり」。対話を重視して相手を理解し、どんな環境にも対応できる柔軟性を持ち、それらを通じて信頼関係を築くことができる人がリーダーへ成長できます。今後も、様々な機会を通じて「人づくり」を進め、製造課長か工場長の立場になって製造部門へ復帰したいという希望を持っています。いつかは自分の現場、工場を持ちたい。そして、みんなで住友電工グループの製造現場を盛り上げていきたい。それが、私の現在の目標です。
1990年 | 住友電装株式会社 入社 生産技術本部 量産試作掛 配属 |
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1999年 | 初めての海外出張(米国) |
2002年 | 製造課 組立班 班長 |
2008年 | 製造課 組立1掛 主任 |
2011年 | 日本能率協会「大野耐一特別賞」受賞 (製造現場で活躍する監督者として表彰) |
2013年 | 製造課 製造技術掛 主任 |
2016年 | 生産技術部。 安全優良職長厚生労働大臣顕彰受賞 |
2020年 | ものづくり技術統轄部 第2ものづくり技術部現在に至る。 |