- 1. 概要
NEDOは「イットリウム系超電導電力機器技術開発」(プロジェクトリーダー:塩原融 公益財団法人国際超電導産業技術研究センター理事、超電導工学研究所 所長)において、これまでの技術開発によって得られた世界最先端の超電導技術を活用して、コンパクトで大容量の電力供給が期待できるイットリウムに代表されるレアアース系酸化物高温超電導線材(イットリウム系超電導線材(注2)と総称)を用いた超電導電力ケーブル、超電導変圧器等の電力機器開発に取り組んでおります。
本事業では、超電導電力ケーブルとして世界最大級の5kAの通電が可能であり、かつ冷却効率を考慮した上での送電損失を現用の電力ケーブルと比較して1/3以下にできる66kV大電流・低損失超電導電力ケーブルを開発いたしました。
NEDOは「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」においてビスマス系の66kV高温超電導ケーブル(定格2kA)の実系統連系による実証試験を実施すると共に、ビスマス系の超電導電力ケーブルに対して更に大容量化と低損失化が期待できるイットリウム系の超電導電力ケーブルについても開発を進めてきました。このケーブルに使われているイットリウム系超電導線材は前述の様な高性能が期待できるものの、ビスマス系線材と比較して十分に性能の高い線材の製造が技術的に困難であるために、これまで5kAもの大電流を流すことの出来る超電導ケーブルの検証試験は実施されていませんでした。
住友電気工業株式会社は、世界最大級の570MVAの送電容量を持ち、150mm管路に収納可能な世界最大の送電密度を有するコンパクトな15m長の66kV級三心一括型(注3)超電導ケーブルシステムを構築し、30年間の運用に相当する加速条件(注4)のもとで長期課通電試験を実施し、システムの健全性を確認するとともに、その交流損失が5kA通電時に1相あたり2W/m以下という低損失であることを検証いたしました。
株式会社フジクラは、世界最大級の臨界電流(Ic=500A/cm以上)を有するイットリウム系超電導線材を用いて作製した66kV級の超電導ケーブルによる全長約20mの試験線路を構築し、この試験線路に電力ケーブルとしては最大級である5kAの通電を行い、実環境に近い状態で交流損失を評価し、5kA通電時に1相あたり1W/m以下となることを検証いたしました。
- 2. 今回の成果
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本事業において、住友電気工業株式会社は、自社が開発したイットリウム系超電導線材を用いて三心一括型超電導ケーブル製造し、その大電流接続部となる終端接続部の電流リード開発、中間接続部の技術開発を行い、超電導ケーブルシステムの実用化に必要な要素技術開発を完成させています。また短尺ケーブルにより交流損失低減のための要素技術を確立するとともに電力系統事故時の故障電流に対する健全性を検証しています。
また、株式会社フジクラが開発した世界最大級の臨界電流値(Ic)(注5)を持つイットリウム系超電導線材を用いたケーブルで検証した5kA通電時の1相あたり1W/m以下という交流損失は、現用の電力ケーブル(代表的には154kV 600MVA級)と比較して冷却効率を考慮した上での送電損失を1/4以下にできるものです。これは超電導電力ケーブルが、国内の電力系統の高効率化の推進にきわめて有効であることを改めて示したものであると考えています。
これらの成果によって、第一世代と言われているビスマス系超電導ケーブルが実用化された後の更なる電力系統の高効率化に資する基礎的な技術が確立したと考えています。
- 3. 今後の予定
NEDOは本事業の成果を基に、地球環境問題への貢献が期待できる超電導ケーブルシステムの実用化に向け、引き続き積極的に取り組んでまいります。
住友電気工業株式会社は、今回の成果をコンパクト・大電流容量が必要な電力ケーブルへ適用したいと考えています。そのためには、イットリウム系線材の長尺化・量産化の技術開発や、イットリウム系ケーブルの実系統での長期信頼性・安定性の検証が必要となります。現在、「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」にて、ビスマス系線材(注6)を用いた超電導ケーブルで、国内初の実系統での実証試験を実施し、長期信頼性・安定性を検証中です。この先行しているビスマス系超電導ケーブルの早期実用化を計り、その成果も活用してイットリウム系ケーブルの実用化に向けた開発も進めて参ります。
株式会社フジクラは、今回、高い臨界電流を有する超電導線材は交流損失の低減に効果的であることを検証することができたことから、超電導ケーブルの更なる大容量化・コンパクト化を図れるものと期待しております。今後もイットリウム系線材の開発を進め、超電導ケーブルの低損失化を進めるとともに、超電導ケーブルシステムの実用化に寄与して参ります。
- 4. お問い合わせ先
- (本プレスリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 省エネルギー部 |
臼井、三津井 |
TEL:044-520-5281 |
住友電気工業株式会社 |
広報グループ |
TEL:06-6220-4119 |
株式会社フジクラ |
コーポレート企画室 |
TEL:03-5606-1112 |
国際超電導産業技術研究センター
超電導工学研究所 |
塩原、大熊 |
TEL: 03-3536-5703 |
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報室 担当:遠藤
TEL:044-520-5151 E-Mail:nedo_press@ml.nedo.go.jp