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広報誌 SEI WORLD 2012年

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SEI WORLD 2012年 01月号(vol. 412)

超電導で、省エネ・省資源の社会へ。

1960年代から住友電工が取り組んできた超電導の研究開発。この夢の技術が、ついに実用期に入りました。23年にわたり材料研究に携わってきた当社の佐藤謙一が、その道のり、そして超電導技術によって未来や社会がどう変わるのかを語ります。

佐藤 謙一

フェロー
材料技術研究開発本部 超電導担当技師長
工学博士

佐藤 謙一

超電導ケーブルの実証試験がついにスタート

  超電導体を冷やしていくと、臨界温度とよばれる温度で電気抵抗がゼロになる。この超電導現象が発見されて100年が経ちました。そして今年、NEDOから委託を受けて当社が開発した超電導ケーブルが東京電力(株)の交流電力網につながれ、いよいよ実証試験が始まる予定です。電気抵抗がほぼゼロの超電導線を使うことによって、送電による電力の損失を大幅に抑制し、さらに、同じ断面積の銅線の約200倍の電力を流すことが可能になる。23年間超電導研究に関わってきた私にとっても感慨深いです。

NEDO:
独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構

電気抵抗ゼロの究極の電線をつくる

  1986年、従来の超電導体よりもはるかに高い臨界温度を持つ高温超電導体が発見されました。それまで電線の材料開発に携わっていた私も超電導研究に加わることになり、5人のメンバーと共に、抵抗がない“究極の電線をつくろう”、そんな使命感に燃えていました。

  セラミックスの一種である高温超電導体。この新材料で何ができるのか、実は線の形になるのかさえわからない状態でした。そこで線材のコンセプトを探ることから始め、短い超電導線を使って手の平サイズのコイル、ケーブル、モータなどを作ってみるなど、少しずつ成長を遂げました。8年ほどかけて、この材料が1,000mの長い線になり、電流が流れるということがわかりました。

  しかしこの後、長い停滞期に入ります。高温超電導材料はお茶碗の材料と同じセラミックスであることからもわかるように非常にもろく製造が困難で、思うように性能の向上が得られません。材料を焼き固める時に空洞ができてしまい、密度が低く特性の低い超電導にしかならないのです。会社として研究を継続すべきか否かという苦しい時期が続きました。試行錯誤をしても、進歩がないことが大変でした。

  しかし、原理的な確信はありました。私たちはまだ材料が持つ性能や性質を引き出せていない、原理をどう技術で実現させるか、です。超電導分野に参入していた多くの企業が撤退しましたが、私たちのモチベーションが下がることはありませんでした。発想したことが実際のデータで裏付けされる喜びもあり、苦しい時も楽しめたように思います。楽観的でなければ、できなかったかもしれません。また、材料エンジニアの私にとっては、手応えのある材料でもありました。複雑であるために均一なものと不均一なものができやすく、製造プロセスの中で条件を厳密にコントロールしなければ良いものが作れない。まさに技術者の腕の見せ所です。

  2004年、ブレークスルーが起こります。1990年代から新しい製造技術を適用するという道を探っていたところ、その技術が設備として完成し、セラミックスの密度を100%にすることができたのです。ようやく“究極の電線”の製品化への確信を得ることができました。

IECトーマスエジソン賞を受賞し、二重の喜び

  超電導線は、まだまだ伸びしろのある製品です。一層の性能向上とコスト低減、そして応用製品のシステム開発を目指して、若いスタッフが力を注いでいます。5人のメンバーで始まった研究開発も、今や100名近いスタッフを抱えるまでになりました。

  この23年はとても早かったように思います。不連続な発展を遂げた技術ですが、エネルギー問題が世界的な課題となる中、ひとつの解となる技術をマグネットでの実用やケーブルの実証試験までこぎつけることができました。やはり技術は、社会の要請に乗ることで伸びていく。逆に要請に乗らなければ、優れた技術も伸びないのではないかと思います。その技術が持つ、運のようなものかもしれません。

  昨秋には、長く超電導分野の国際標準をつくる仕事を続けてきたことと、技術開発の功績が認められ、IECトーマスエジソン賞をいただきました。メルボルンでの授与式では、1分弱のスピーチもしました。「私個人にとってはもちろん、日本にとって、専門家のみなさんにとっても名誉なことです。超電導現象発見から100周年でもあり、喜びは2つになりました」と。

自然エネルギーを運ぶその答えは、超電導

  超電導で社会はどう変わっていくのか。もちろん、一足飛びにというわけにはいきませんが、確実に変わっていきます。超電導線や機器をシステムへと高めることによって、「エネルギー・環境技術」「交通技術」「ユビキタス」「工場とモノづくり」「医療・分析」の5つの大きな分野への応用が考えられます。医療におけるMRIなど既に商業製品にまで達しているものもありますが、幅広い分野で超電導材料が使えることから、今後私たちの生活にかなりの影響を与えてくれます。

  「エネルギー・環境技術」分野では、送電による損失を抑えて従来の銅の電線の200倍の電気を流せることから、省エネ・省資源の社会が実現します。単純に2tの銅が必要だったものが、超電導線なら10㎏で電気を送ることが可能になります。

  そして超電導は、直流の電気を送ることが交流の電気を送ることよりさらに適しているため、太陽光や風力などの自然エネルギーとのマッチングが良く、エネルギー問題解決の一手段にもなります。現在の政府の計画では、2030年にはピーク時対応で自然エネルギーが国内電源の3分の1まで拡大する予定です。そうなると大規模太陽光発電所が不可欠ですが、生活エリアからは遠くにつくらざるを得ません。問題は、そんな遠くからどうやって電気を運ぶか、です。そこで、電力を長距離で効率良く運べる超電導線の出番となります。エネルギー問題の解決には、電気をつくる、そして、運ぶ、この2つが両輪でうまく技術として完成していくことが重要です。超電導ケーブルは直流の電気を遠くに運ぶことに優れているため、太陽電池から出てくる低電圧の直流の電力や、現在は一度直流にしてそれを商用周波数の交流にして送っている風力の電力もそのまま直流で送ることができ、効率が上がります。

超電導で変わる、私たちの生活

  現在、日本の科学者を中心に「サハラソーラーブリーダー計画」が進んでいます。太陽電池の材料となるシリコンの原料がとれるサハラ砂漠で太陽電池により電気をつくり、その電気でまたシリコンを精製して太陽電池をつくる。それによりアフリカの産業の育成と雇用を確保し、つくった電力をヨーロッパまで超電導ケーブルで運ぶという遠大な計画です。ここまで大きくないにしろ、国内でも需要が集中しているところから、システムの導入を始めれば良いのではないかと思います。

  「交通技術」の分野では、電気自動車、リニアモーターカーはもちろん、半分は直流で動いている鉄道においても超電導線が活用できます。さらに従来のケーブルの4分の1の軽さというコンパクトな超電導ケーブルなら、高速道路などに沿わせることができるため、次世代の道路サービスの可能性が広がります。これらがいつ実現するのか、まだ時間軸では語れませんが、将来、確実に、超電導が私たちの生活を支えてくれるでしょう。

 

再生可能エネルギー社会で直流送電システム

■超電導の応用が期待される分野

(1)地球とエネルギー・環境技術(電力ケーブル、発電機、変圧器、限流器など)
(2)都市インフラと交通技術(船舶用モータ、超電導自動車、リニアなど)
(3)暮らしとIT・ユビキタス技術(インターネットデータセンター直流配電など)
(4)工場とモノ作り技術(単結晶引き上げ装置、B-Hカーブトレーサー、誘導加熱装置など)
(5)医療とバイオ技術(MRI、NMRなど)

 
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