PTFE(※1)は、滑り性(固体中最小の低摩擦性)、非粘着性などユニークな特性に加え、耐熱性・耐薬品性・耐候性等にも優れ、当社グループでは、炊飯器・フライパン用途として「スミフロンコートアルミ」、OA機器向けに「スミフロンローラ」、フッ素多孔質膜として「ポアフロン」等、幅広い製品を提供しています。一方、フッ素原子間の結合力が弱いことから、磨耗しやすく滑り性を活かした摺動用途での利用は限定的でした(図1)。
そこで、長年培ってきた「フッ素加工技術」と「電子線照射技術(※2)」を融合し、耐磨耗性を飛躍的に高めた「高機能フッ素コート」を開発しました。具体的には、アルミニウム等の基材上にPTFEをコーティングした後、特殊な技術で直接電子線を照射し、コーティング全体を架橋(※3)することで分子間の結合を強化しました(図2)。これにより、耐磨耗性の大幅な向上とともに、基材との密着性の向上を実現しました。また、優れた滑り性などのPTFE本来の特性をそのまま維持しています。
当社によるスラスト摩耗試験(図3)では、当社のスミフロンコートアルミ、摺動材として最も一般的なPOM(※4)、スーパーエンジニアリングプラスチックであるPEEK(※5)と比べ、「高機能フッ素コート」は格段に高い耐磨耗性(PEEK比10倍以上)を示しました。
「高機能フッ素コート」は、板材からのプレス加工が可能で、自動車部品等に用いられる巻き軸受け(※6)や異形のスライダー、更に、これまで適用が困難だった複雑形状への成型が可能です。また、高い滑り性のため、回転軸にかかる力(トルク)が低くなり、省エネルギーに寄与するとともに、軸受け等のオイルレス化も促進できる可能性もあり、環境にも優しい技術と言えます。今後、自動車をはじめ様々な産業機械等に使用されるシャフト等の任意形状の部品へのコーティング技術についても検討を進めていきます。
※1PTFE(ポリテトラフルオロエチレン):
フッ素原子(F)と炭素原子(C)の2原子からなる直鎖状高分子。C-F間の結合力は極めて強く安定しているため、耐熱性、耐薬品性、耐候性等の特性に優れます。一方、高分子中最小の電気陰性度・極性を持つため、異分子が付着しにくく、フッ素原子間の凝集力も非常に弱いという特徴を持ちます。
※2電子線照射技術:
当社は、1964年に国内初の商用電子線加速装置を導入し、電子線照射による架橋樹脂製品として、熱収縮チューブ「スミチューブ」や耐熱チューブ「イラックスチューブ」、改質エンプラ「テラリンク」を製造販売しています。
※3架橋:
分子鎖間の「橋かけ」を行う反応。結合力の非常に強い共有結合を形成できるため、耐熱性、耐薬品性、耐磨耗性など様々な特性を向上できます。今回の新技術はPFA・FEPなどのPTFE以外のフッ素樹脂も対応が可能です。
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