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広報誌 SEI WORLD 2012年

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SEI WORLD 2012年 06月号(vol. 417)

夢あふれる材料、化合物半導体。

林 秀樹

世界に先駆けて住友電工が進めてきた化合物半導体開発の歴史が50年を超えました。
この研究開発の中心となってきた当社フェローの林秀樹が、化合物半導体という材料の魅力、そして、この材料で描く未来像を語ります。

化合物半導体 開発の歴史

数限りない種類のデバイスが作れる優れた材料

  集積回路などに用いられているシリコン半導体とは異なり、化合物半導体は2種類以上の元素からなる化合物の半導体で、私たちの身の回りでもたくさん使われています。例えば、光ファイバ通信用レーザや受光素子、携帯電話などの無線通信システム用の各種トランジスタ、さらにCD、DVD、ブルーレイなどの光源、照明用の白色LEDなどです。

  化合物半導体では、複数の元素を混ぜ合わせ、その混合比を変えることにより、望みの物性値を持った半導体薄膜を半導体基板上に作ることができます。そして複数の半導体薄膜をデバイス設計に沿って三次元的に分布させることにより、様々な機能と特性を持った数限りない種類のデバイスが作れます。これが化合物半導体の魅力なのです。シリコン半導体では実現できない半導体レーザなどの光デバイス、シリコン半導体よりも特性の優れた高周波トランジスタや次世代パワーデバイスなどの電子デバイスが実現可能です。

 

世界最大の化合物半導体材料総合メーカー

  世界でいち早く、化合物半導体基板の開発・事業化を始めたのが住友電工です。今から半世紀前、1961年のことです。以来、基板のみならずデバイスの研究も進め、最近では、ブルーレイディスクに使われる青紫レーザ用のGaN(窒化ガリウム)基板の開発・製品化を実現しました。今や世界最大の化合物半導体基板の総合メーカーとなっています。

  私も入社以来30数年間ずっと化合物半導体デバイスの研究開発・製品化に携わってきました。ここ10年はエネルギーバンドギャップが大きいSiC(炭化ケイ素)やGaNといった半導体を用いた次世代パワーデバイスの研究開発に取り組んでいます。

  化合物半導体では、厚さ数ナノメータの薄膜結晶を基板結晶全体に均一に成長させるのですが、これが大変難しいのです。1980年代の開発初期には、市販の良い結晶成長装置がなく、装置作りから皆で始めました。苦労してようやく完成させた装置で成長した薄膜多層構造を使い半導体レーザを作ったところ、当時の世界トップの性能が得られました。アメリカの学会でも発表したのですが、本当にうれしかったです。

 

技術者冥利につきる魅力的な材料

  当社の研究部門には、一人ひとりがアイデアを持ち、それらを育てていく風土があります。研究部門上長たちの前で提案をし、これが認められると小規模な研究がスタートでき、定期的な評価によってさらに大きなプロジェクト化もできます。こうした恵まれた環境のもと、私も化合物半導体デバイスという“魔物”に向き合ってきました。

  「こういうものがあったらいいな」と思いついた時に、いろいろな元素を混ぜ合わせた化合物半導体を用いて、新構造デバイスを設計し、これを工業的に生産できる形にしていく過程は、技術者冥利につきます。もっとも、非常に手強い相手ですから、成功するまでが大変で、今も奮闘中です。

  化合物半導体デバイスの面白さを少しでも多くの方と共有できるよう、機会があれば各所で講演や講義を行っています。これもフェローとしての私の務めだと思います。今年3月には米国特許庁へ出向き、約200人の特許審査官に、化合物半導体デバイスの面白さや将来展望、それに向けた当社のアクティビティなどについて講演してきました。

 

省エネそしてクリーンな未来へ

  化合物半導体デバイスで、どんな未来像が描けるのか。その答えのひとつが省エネです。電力の変換や制御を行うのがパワーデバイスですが、地球上で消費される全エネルギーの約5%がパワーデバイスで無駄に消失しています。そこで低損失化を目指し、エネルギーバンドギャップの大きい半導体のパワーデバイスの研究開発が精力的に行われています。近い将来、シリコンのパワーデバイスの何割かが化合物半導体パワーデバイスに置き換わり、省エネ社会に貢献できるでしょう。

  半導体レーザ、受光素子などの光デバイス分野では、これまで実現できなかった波長帯のデバイス開発が進んでいます。例えば、波長の長い赤外線領域などでは、医療用、食品検査、セキュリティ、無線データ通信などへの応用が期待できます。もう少し波長の短い緑色領域でも、これまで実現できなかった半導体レーザを製品化しようとしています。このグリーンレーザの実用化で、携帯電話に搭載できるような小型のプロジェクタが可能になります。もっと波長の短い領域では、将来、紫外線光源が可能となり、有害物質が使われている水銀ランプなどを置き換えた小型の光源も実現するでしょう。今後さらに多種な化合物半導体デバイスが登場し、より快適でクリーンな省エネルギーの世界が実現されると期待しています。

  もっと先には、化合物半導体デバイスによってエネルギーを効率良く蓄えたり、エネルギーを生み出すことも夢ではないでしょう。当社が化合物半導体の開発を始めた50年前は、現在のような状況を想像できなかったはずです。そう考えると、数十年先に夢が実現する可能性は十分にあります。

  この30数年間において、研究開発がいつもうまく進んできたわけではありません。失敗の方が多かったと言えます。しかし、失敗を恐れず挑戦し、失敗を有効に生かさなければ、新しい製品は生まれないと思います。

 

若い研究者の皆さんに向けて

  若い研究者の皆さんには、10年後、20年後に向けた長いスパンの夢を持ってもらいたいですね。その夢を実現するために、「今年はここまでやっておこう」という目標を掲げて実行していくと、毎日やりがいがあり、成果も積み上がってくると思います。

 

PROFILE

林 秀樹  Hideki Hayashi
フェロー/工学博士/情報通信・システム事業本部 技師長

1978年の入社以来、一貫して化合物半導体デバイスの研究開発・事業化に従事。オプトエレクトロニクス研究所長、半導体技術研究所長、パワーデバイス開発室長などを経て、現職。2004年から当社フェロー。

■学会
  • ・IEEEフェロー
  • ・応用物理学会フェロー
  • ・電子情報通信学会評議員
  • ・輻射科学研究会評議員
  • ・日本工学アカデミー理事
■横顔

最近10年で1000本以上の映画を鑑賞したほどの映画好き。オリジナルのスクラップブックを手作りし、観た作品をひとつずつ記録している。「自分とは異なる文化や環境で繰り広げられる様々な人生を、映画の中で疑似体験できるのが楽しい」。

・「Blu-ray」は、米国 Blu-ray Disc Association の米国及びその他の国における商標または登録商標です。

 
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