プロジェクトid 社会課題への挑戦 アルミワイヤーハーネスが変える自動車、そのミライ

「人」の力によるものづくり〜世界約30か国、従業員約25万人〜

Sumidenso Paraguay S.R.L の従業員

ここでは、アルミハーネスのみならず、住友電工グループの主力製品であるワイヤーハーネスの生産体制を紹介する。
(生産を担っているのはグループ企業の住友電装)。住友電工グループが生み出すワイヤーハーネスが世界中で高い信頼性を確保しているのは、その技術力のみならず、地道にして着実、「人」の力による高品質なものづくりの体制が整備されているからにほかならないからだ。
併せて、最も新しいワイヤーハーネスの生産拠点、南米パラグアイにあるSumidenso Paraguay S.R.L (以下、SDP)の現況を報告する。

全世界の合言葉「ピカピカ運動」

 製造におけるワイヤーハーネスの最大の特徴は、そのほとんどが人の手で作り上げていく「労働集約型製品」という点にある。文字通り「人」の力によりものづくりが展開されているのが、製造の現場だ。したがって、その品質を決定づけるのも「人」。一人ひとりの従業員の力量にかかっているといっても過言ではない。さらに、その生産拠点は全世界約30か国に及ぶ。総従業員数は約25万人。この生産体制で常に追求しているのが「世界同一品質」である。

「世界のどの拠点からも同一の最高品質の製品を届けること、それが当社の基本理念です。そのベースにある“ものづくりは人づくり”という考えが、世界同一品質を生み出す原動力と言えます」(住友電装ハーネス生産企画本部グローバルピカピカセンターグループ長・小森彰博)。その具体的な実践が、住友電装独自の「ピカピカ運動」だ。これは「ピカピカな心・行動・技術」「ピカピカの設備・工場」を通じて、「ピカピカのものづくり」を実現するための運動として定着しており、世界同一品質実現に向けた、全世界従業員の合言葉ともなっている。

左)住友電装 ハーネス生産企画本部 グローバルピカピカセンター グループ長 小森彰博 右)住友電装 執行役員 丸山哲二
左)住友電装 ハーネス生産企画本部 グローバルピカピカセンター グループ長 小森彰博 右)住友電装 執行役員 丸山哲二

まず、スキルを評価測定する「G-STARS (Global Skill Training And Recognition System)」。作業スピードや品質管理など各スキルのレベルアップを図る世界共通の訓練・評価システムで5段階評価がなされる。従業員のモチベーションアップ、スキル向上につなげていく。「ピカピカ度」を採点する「PK評価」は工場管理レベルを評価する。近年では100点満点中80点以上が9割を超えるほど、全体の「ピカピカ度」は高い。そして世界中の従業員が出場を目指しているのが「ワイヤーハーネス技能五輪」だ。世界各国から選ばれた代表が、年に一度日本に集結し、各作業工程におけるスキルナンバーワンを目指す。「いずれも評価するものとしてありますが、これらはすべて教育の一環、すなわち人づくりであり、それが世界同一品質を生む力なのです」(住友電装執行役員・丸山哲二)。

G-STARSの訓練風景
G-STARSの訓練風景

世界同一品質実現に向けた奮闘

パラグアイは、南アメリカ大陸のほぼ中央に位置し、日本から最も遠くに位置する国の一つである。近年、中南米諸国の中でも俄かに注目を集めている国だ。その要因の一つが、部材輸入/製品輸出に対する免税措置による経済政策にある。このパラグアイで、住友電工グループ(住友電装)は2016年、ワイヤーハーネスの生産を開始した。「パラグアイは外国企業の誘致を積極的に行っており、それに伴う雇用創出、一層の経済成長を目指しています。また、若年層の比率が高く、豊富な若い労働力を確保できることも魅力であったことから、当社生産力拡大に最適な場所と考え生産拠点を設けました」(SDP 取締役社長・森井正美)。SDPは、ブラジルのSumidenso do Brasil Indústrias Elétricas Ltda.の子会社であり、ブラジルの生産ラインの一部を移転して開設した。開所式にはパラグアイ大統領、主要大臣、日本大使も臨席、商工大臣においては開所式前後に計3回の訪問を行うなど、その期待の大きさが伺われる。現在、約1,400名の雇用を創出、パラグアイ国内において従業員数、売り上げでトップクラスの企業となるまでに成長した。

開所式にはパラグアイ大統領や主要大臣、日本大使、他たくさんの方々にも臨席いただいた。前段左から4人目:カルテス大統領、5人目:井上治(住友電工社長)、6人目:森井正美(SDP 取締役社長)
開所式にはパラグアイ大統領や主要大臣、日本大使、他たくさんの方々にも臨席いただいた。
前段左から4人目:カルテス大統領、5人目:井上治(住友電工社長)、6人目:森井正美(SDP 取締役社長)

だが、工場立ち上げ時の苦労は並大抵のことではなかった。副社長の黒田弘司は当時を次のように振り返る。「パラグアイでは農業に従事している方がほとんどで、従業員は企業で働いた経験のない人ばかりでしたから、日本やブラジルで技能を習得した指導員と共にひたすら根気よく指導していきました。いまでは教育の浸透や現場の改善運動が進んできたことで、品質安定化を実現しています」。開所間もない工場で「世界同一品質」実現のために、どのような取り組みを進めてきたのだろうか。

「ワイヤーハーネスの組み立てはほとんどが手作業であるため、正しい作業をこなすことが基本です。そのため、住友電装のものづくりの基本管理ポリシーである「3つの管理」を徹底しています。決められたルール通りに作業しているか(作業遵守)、人・モノ・設備に変化があった場合のチェック(変化点管理)、そして異常が発生した時のチェック(異常管理)。この管理と教育を地道に継続して行うことが、世界同一品質につながると考えています」(前出・黒田)。

黒田副社長(中央)と現地を指導する日本人スタッフ
黒田副社長(中央)と現地を指導する日本人スタッフ

現場の従業員の声にも耳を傾けてみよう。ノエリア・ディアスさんは、設立と同時に入社し、今ではラインのリーダーとして活躍する。「以前は、スーパーでレジを打っていました。この仕事に携わって良かったことは、諦めないでやり続けたことでリーダーに抜擢してもらい、人間的な成長ができたことです。日本の方々から教わった、仕事を丁寧に最後まで終わらせることの大切さを伝えています」と後進の指導に余念がない。

(左)ラインリーダーのノエリア・ディアスさん
(左)ラインリーダーのノエリア・ディアスさん

オペレーターのミナミ・ヴァレリアさんは、新しい挑戦を求めて入社した。以前はベビーシッターや看護をしていたが、安定した仕事がしたかったという。「当初は仕事が遅く、みんなに迷惑をかけたこともありましたが、“あなたならできる”とリーダーや他のオペレーターに励まされ、今では一番早くできるようになりました。もっと技術を習得し、オペレーター以上の仕事ができるようになりたい」と意欲にあふれる。ワイヤーハーネスの製造現場は、技術の習得と同時に人間的な成長をもたらすチャンスの“場”となっていた。

オペレーターのミナミ・ヴァレリアさん
オペレーターのミナミ・ヴァレリアさん

現在、パラグアイでは増大する南米の自動車需要に呼応し、新たな生産プロジェクトが立ち上がっている。「これまでの経験を活かし、みんなで力を合わせて無事に立ち上げたい。それにより従業員のさらなるレベルアップを図っていきたいと考えています」(前出・森井)。南米パラグアイ──彼方の地で、住友電工グループのものづくりの哲学は、脈々と生きている。

SDPの生産ライン

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