レーザーの波長変換システムの実験風景(光産業創成大学院大学)
時代が要請するものづくりを牽引する住友電工グループの光学部品。事業部門としての今後の展望について、アドバンストマテリアル事業本部長・牛島望は期待を込めて語る。
「まずは、付加価値の高い製品を届けることが重要です。他社に真似のできない独自な製品が差別化を生むと考えています。レーザー技術の本場であるドイツ、そして米国をはじめ、近年伸びている台湾、韓国、そして中国。それらの市場を積極的に開拓しており、すでに海外の大手レーザー加工機メーカーにもレンズを出荷しています。
また、この技術を住友電工グループ内の生産技術として展開する取り組みも進めています。たとえば、当社の超硬工具、人工ダイヤモンド工具用の素材は、きわめて硬い難加工材料です。しかし、レーザー加工であれば、非接触で自由度の高い形状を高速に作り出すことができます。より高機能な切削工具を世の中に送り出すためにレーザー加工は非常に有用な技術であり、積極的に採用していきます。当社の光学部品技術は、そのドライビングフォースになりえます」(牛島)
静岡県・浜松市の浜名湖湖畔。ここに光産業創成大学院大学がある。「光」科学技術により、新たな産業を創成できる人材育成を目指して2005年に開学した。副学長で光産業創成研究科教授である坪井昭彦氏は、CO2レーザーの黎明期から約30年、レーザー加工の産業応用に取り組んできた第一人者である。大手自動車部品メーカー在籍時代からレーザーの可能性に着目。その後、レーザー加工のベンチャー企業を立ち上げた。多くのメーカーでの実用化を支援し、日本のレーザー加工技術の進化と普及を支えてきた。
「レーザー加工技術はまだまだ進化を続けています。新しいシーズが次々に出てきており、大きな可能性を秘めています」(坪井氏)
現在、坪井氏は日本原子力研究開発機構敦賀総合研究開発センター内のレーザー・革新技術共同研究所の所長を兼務しており、原子炉解体に向けて除染および構造物切断へのレーザー加工適用の研究を進めている。非接触で高出力というレーザーのメリットを最大限に活かした用途であり、社会的意義の極めて大きなテーマだ。原子炉解体で採用されるレーザー加工機には、過去には想定すらしなかった100kW級の世界最高クラスの超高出力レーザーが開発に使われている。坪井氏は次のように指摘する。
「単にレーザーを導入すれば、合理化や生産性向上が実現するわけではありません。レーザーは万能ではない。初期導入費用も高価であることは否定できません。重要なのは、使いこなすエンジニアの知恵です。レーザーを生み出す発振器が自動車のエンジンとするならば、レンズなどの光学部品は駆動部分。駆動システムが正しく作動しなければ車が動かないのと同様に、光学系はレーザー加工のコアであると考えています。各アプリケーションに対し、いかにして発振器と光学部品、加工条件を組み合わせて加工技術全体を作り上げるかが重要です」
坪井氏と住友電工グループとは、1990年頃からビジネスパートナーとして協働してきた。これからのレーザー加工において光学部品に求められる要素、そして住友電工グループへの期待とは何なのか。
「さまざまな分野でレーザー加工が採用されていますが、ニーズの一つとして製造現場では『やりたい加工を自在に』ということです。たとえば、加工中にレーザービームの形状を制御したり、ビーム分岐したりしたいのです。レーザー発振器も重要ですが、同時に光学系の制御が大きな役割を果たします。ビームのプロファイルを明確に把握し、エネルギー分布を最適化するなど、自在にアクティブにビームを制御する技術・製品が求められます。住友電工グループの優れた光学技術・製品群に期待するところです」
さらに、未来に向けてこのように続ける。
「住友電工グループは、すでに光学部品メーカーとして高い信頼性を確保していますし、技術力で一歩先んじていることは間違いありません。その技術は、レーザー加工のあらゆる局面で大きな変革、進化をもたらす起爆剤となりえます」
住友電工グループは、レーザーが持つポテンシャルを最大限に発揮させるために、新たな光の領域へこれからも挑戦を続けていく――。