送電線の埋設工事風景
住友電工グループはウィンドファームつがる着工に向けた準備を進めていたが、この時点では、まだ正式受注には至っていない。まず風力発電所建設の発注が行われ、住友電工グループ同様早い時期から風車の配置や建設設計などでGPIに協力していた大手ゼネコン鹿島建設(株)(以下、鹿島建設)が「EPC」として受注した。「EPC」とはEngineering=設計、Procurement=調達、Construction=建設を含む、プロジェクトの建設工事請負契約のことを指す。したがって、住友電工グループが担う送変電設備および工事は、鹿島建設から受注する必要があった。その最前線に立ったのがエネルギーソリューション営業部の杉浦正典である。
「ウィンドファームつがるで送変電設備を一体で設計する取り組みは、当社としても初めてでした。そのため、社内に前例や経験はなく、各種検討をするたびに壁にぶつかりながらも、関係者の協力を得ながら手探りで進めていったことを覚えています。そのような中、鹿島建設様との交渉・折衝を担いました。鹿島建設様も100MWクラスの送電システムを扱うのは初めての取り組みであり、送電、変電の双方にわたる専門性の高い当社の提案をご理解いただくことに最初は苦労しましたが、粘り強く丁寧に説明を続けることで、徐々に意思疎通がスムーズになっていく実感がありました。そして最終的には、送変電パッケージ提案のみならず、電圧を問わず送配電ケーブルの対応が可能な製品ラインナップや、短工期を実現する国内随一の製造・施工能力など、総合力をご評価いただいたことで契約に至ったものと考えています。それはちょうど技術的課題を克服したのと同じ2017年12月。住友電工グループの強みである総合力を最大限に生かしたこの新たな挑戦が始まることに大きな手応えを感じました」(杉浦)
こうしてウィンドファームつがるは着工のフェーズを迎えることとなった。
2017年12月、起工式が行われ、全体工事が開始。翌2018年7月、154kVケーブル敷設工事が開始され、その後接続工事、受変電工事が随時進められていった。ウィンドファームつがる建設工事事務所の所長として風力発電所工事全体をマネジメントしたのが、鹿島建設の東北支店土木部プロジェクト推進部長の明本守正氏である。これまで数多くの現場を経験してきた明本氏だが、発電所の基礎から建て方、集電、送受電工事まで一括して請け負う案件としては最大規模であり、極めてチャレンジングな試みだったという。
「鹿島建設、住友電工、そして住友電設という異業種連携によるプロジェクトでした。企業文化や考え方が異なる中、いかにまとめていくかに最も注力しました。作業現場は約60もあり、風車は38基、地中送電線は約34km、最大時で現場に関わる人数は約500名。こうしたビッグプロジェクトを推進する上で大切にしたのは、プロジェクトに参加する人が共通の目標に向かう雰囲気をつくること。この現場のために頑張りたい、この現場に関わって良かった、そう思える現場にしたいと考えていました」(明本氏)
住友電工グループと鹿島建設は、過去の案件で協業してきた歴史もあるが、明本氏が住友電工グループとタッグを組むのは初めてのことだった。どんな印象を持ったのか。
「「まず、その実績や歴史から、前提として技術的な信頼感はありました。ぶつかることもありましたが、お互い強い信頼感でつながっていたと思います。その信頼感を醸成したのが、“想い”です。意地でもスケジュール内で完成させる、電気の安定的供給を実現するぞという熱い人間だけが持つプライドやパッションを共有できた。プロジェクトはGPI様に高く評価いただきましたが、それも困難な技術的課題をクリアした住友電工グループのおかげと感じています。今後、陸上、洋上、国内外問わず、もう一度一緒に風力発電プロジェクトに取り組めれば。そう思っています」(明本氏)
鹿島建設の下で、今回のプロジェクトで重要な役割を担ったのが、グループ会社の住友電設である。ケーブル工事の掘削距離は、集電・送電合わせると約56kmに及び、また公道での地中埋設管路計画、それに対し、適正ルートを選定するための調査や許認可取得のための協議など、管路土木工事を検討、実際の敷設工事を速やかに遂行した。
住友電設の土木工事と並行し、変電所建設やケーブル布設を推進するメンバーとして着任したのが住友電工・電力プロジェクト事業部の坂口渉である。坂口は調査フェーズから本事業に関わり、2018年7月のケーブル布設工事開始とともに正式に着任した。
「2019年8月1日。この日が『受電』の日と設定されていましたから、それまでに送変電設備およびケーブル布設工事を完璧に終了させなければなりませんでした。『受電』とは発電を行わない状態での電力会社との連系で、電力会社から154kVの電力を受けて、連系電気設備が正常に機能することを確認する作業で、発電所建設の大きな節目です。しかし、降雪が多いエリアであり、工事期間は実質10カ月と非常にタイト。私たちは当社製品の効果をカタチにしてお客様に届ける役割を担っており、失敗は許されないという気持ちと、他の現場同様にいつもの通り進めれば問題はないという自信もありました。徹底した安全管理と品質を担保した進捗管理が私の役割でしたが、その過程で鹿島建設様とタッグを組んだ実感が強くあります。最後に『住友電工がいなければ完成できなかった』と明本所長から言われました。それは最大の褒め言葉であり、確かな達成感を味わいました」(坂口)
設計をカタチにする住友電工グループの現場力が発揮された現場だった。こうしてウィンドファームつがるは、2020年4月に稼働、商業運転を開始したのである。