プロジェクトid 社会課題への挑戦 クラウド社会をつなぐ光ファイバ最前線

クラウド社会を支える光ケーブル 〜時代が要請する高速大容量化に応える〜

住友電工が世界に先駆けて開発した超多心(3456心)の光ケーブル

「汎用光ファイバ」「海底光ファイバ」
「光ケーブル」という事業ドメイン

クラウド社会を支えるネットワークの基盤となる光ファイバ。光ファイバは石英ガラスやプラスチックで形成される細い繊維で、中心部のコアとその周囲を覆うクラッドの二重構造で構成されており、光信号を全反射という現象によりコア内に閉じ込めた状態で伝搬する伝送媒体だ。電磁波に影響されないため通信安定性が高く、大容量かつ長距離伝送が可能という性質を持つ。住友電工グループは1974年に「光ケーブル」の製造を開始して以来、40年以上にわたり、多彩な製品を開発・提供してきた。

現在の住友電工グループ光通信事業のドメインは、「汎用光ファイバ事業」「海底光ファイバ事業」「光ケーブル事業」に大別される。「汎用光ファイバ事業」および「海底光ファイバ事業」での対象製品は、光信号の伝送路である光ファイバ心線であるが、「光ケーブル事業」では極めて繊細な光ファイバ心線を撚り合わせて外被加工などを施し、屋内外での実用に耐え得る形態としたケーブルが対象製品である。したがって、それぞれのマーケットも異なってくる。汎用光ファイバはコモディティでありボーダレスであるのに対し、光ケーブルはエリアごとのカスタマイズが要求されるローカルな製品だ。住友電工グループにおいても、光ファイバはグローバル製品であるが、光ケーブルは、従来、国内市場向け製品(陸上用)と位置付けられていた。もう一つの「海底光ファイバ事業」は、住友電工グループの独創の技術が開拓したともいえるドメインであり、世界No.1シェアを確保している。

海外市場を主戦場とする光ファイバ
「超多心」と「極低損失」が生む差別化

日本国内では、1980年代から光ケーブルの敷設が始まり、現在はほぼ全国を網羅。したがってこれからの汎用光ファイバの主戦場は海外となる。世界的に見ると、光ファイバ市場は拡大傾向にあり、特に中国市場の伸長が目覚ましい。住友電工グループにおいても、10年前と比べて国内、海外の売上比率は逆転しており、現在ではおよそ75%が海外市場向けだ。中国市場も収益に大きく寄与している。現在、住友電工グループの光ファイバのシェアは、世界トップグループの一角を占めるが、シェア拡大のみが目指すところではない。光通信事業部長の末森茂は、社会と顧客のニーズにいかに応えるかが重要であると言う。

「今後、光通信システムに求められる要素は、高速大容量、低遅延*性、高信頼性の3つに絞られます。これらをハイレベルで実現するのが我々のミッションと考えています。たとえば高速大容量。その実現のために重要なことの一つは伝送損失を極限まで低減すること。これにより受信感度が改善され、より多くの光信号を送ることができます。また一本のケーブルの中に多くの光ファイバを収納できれば、効率的な高速大容量化が可能となります。これを具体化した製品が超多心光ケーブルですが、「超多心」と「極低損失」の実現が高速大容量化には非常に重要で、競合他社との差別化のポイントであり、現在、当社が最も注力している取り組みです」

* 遅延:伝送経路のエンド・トゥ・エンドで要する信号の伝達時間のこと。

情報通信事業本部 光通信事業部長 末森茂
情報通信事業本部 光通信事業部長 末森茂

マーケットで進むパラダイムシフト
クラウドサービスとデータセンタ

末森の言葉の背景にあるのがマーケットの劇的な変化だ。従来、光ケーブルのユーザーは主に通信キャリアだった。しかし時代の変化に伴い、パラダイムシフトが起こりつつある。それが、冒頭で指摘した「クラウド・コンピューティング」の進展であり、クラウドサービスを提供するプロバイダーが有するデータセンタの存在だ。これらサービスプロバイダーは、米国を拠点に最先端ITを武器としてグローバルに事業を展開する巨大IT企業であり、彼らは今、光ケーブルを自ら保有し運営するユーザーになりつつある。単に膨大な情報を流通させ、ソフトウェアやストレージ・サーバなどのITリソースを提供するだけでなく、それらの情報はビッグデータとして事業戦略の重要な資源ともなる。彼らが保有するデータセンタの多くは、サーバを数万〜数十万台有する、まさにハイパーな規模だ。そして、ローカルに群立する複数のデータセンタ棟を接続する役割を担うのが高速大容量の光ケーブル、すなわち、末森が指摘した「超多心光ケーブル」だった。次章では、住友電工グループが成し遂げた光ケーブルの超多心化の具体的な取り組みを見てみたい。

出荷を待つ「3456心ケーブル」(左:ケーブル製造部長 岡田武彦、右:技術部長 天野亜夫)

多心化」の実現が新たな世界を拓く
〜データセンタをつなぐ
ケーブル〜