海外営業を牽引する若手営業メンバーたち
競合の厳しい追い上げが予想される中、営業活動も新たな局面を迎えている。国内の営業戦略を担う一人が、量産初期から前出の桑田らと共に「GaN HEMT」に関わってきた住友電工のデバイス営業統轄部コミュニケーション・デバイス営業部の深澤孝訓だ。
「依然としてSi-LDMOSメーカーは、携帯電話基地局デバイスでは世界トップにあります。彼らは顧客に入り込んで回路を開発するアプリケーションサポートに優れており、GaN HEMTへの参入も始まっています。我々は顧客システムを深く理解して顧客要望を組み込んだ提案をいち早く展開する必要があり、Quality・Cost・Delivery・Development(QCDD)いずれの面でも優位性を確保することで、世界No.1のポジションの確保を目指します」(深澤)
海外営業も加速しており、とりわけ北米・欧州市場において積極的な展開を見せている。欧州市場の前線で活躍しているのが同じくデバイス営業統轄部 海外電子デバイス営業部の永田航平である。
「現在メインターゲットとしているのが、スウェーデン、フィンランドなどの北欧です。北欧はIT 先進国であり、基地局装置メーカーで先行している企業が多くGaN HEMTの需要拡大傾向にあります。しかしここでもGaN HEMTをめぐって熾烈な競争が始まっています。そこを勝ち抜くには、現地のマーケット情報を的確に把握することで最適な提案をし、顧客の信頼を勝ち取っていくことがカギだと思っています」(永田)
「GaN HEMT」の需要は世界規模で拡大している。立ち上げ当初は、「GaN HEMT」のデバイス開発者として関わり、現在はSEDIの生産技術部で部長を務める蛯原要は、喫緊の課題は生産能力の強化と指摘する。
「まず、生産体制の要となる山梨事業所では4インチラインを増強しています。ウェハーの処理能力で見ると、2019年度は2017年度比で2倍、2020年度には同比3倍になる計画です。また、北米にも新たな生産拠点を設立する計画です。重要なことは、工程改善と徹底した業務の効率化による生産体制の最適化を図ることであり、今後、競争が厳しくなっていく中で、最適化の追求は終わりのないテーマだと考えています」(蛯原)
生産能力増強の背景にあるのが、5G通信技術の動向だ。5G においては、Massive MIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)と呼ばれる無線通信技術が採用される。電波の利用効率を飛躍的に高め超高速通信を実現する通信方式であり、従来の基地局対比で10~30倍のデバイス数が必要となる。それにともない「GaN HEMT」の需要が大幅に増加、2020年度には、デバイス換算で2017 年度の10 倍にも到達する計画が立てられている。SEDIの「GaN HEMT」が世界市場を席捲する日は近い。
情報通信・無線の最先端研究領域は、5Gのミリ波帯の先であるテラヘルツ波帯に及んでいる。その研究の第一人者が、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究所研究所長の寳迫(ほうさこ)巌氏だ。
「テラヘルツとは100GHz~10THzの周波数帯を指し、約20年前から研究が始まりました。テラヘルツ波は電波としては非常に高周波であり、ミリ波の先にある技術ですから、非常に大容量の無線伝送が可能となります。無線伝送で300GHzの周波数帯で100Gbpsという高速性の実現をターゲットとしていますが、そのコアとなるのが電子デバイス。住友電工グループが生み出したGaN HEMTは、携帯基地局のみならず、デバイスとサーバの物理的距離を縮め、通信時間を短くすることでリアルタイム性を確保する、モバイル・エッジ・コンピューティングにも有効なデバイスと考えています」(寳迫氏)
テラヘルツをめぐる話題として注目を集めたのが、2019年、世界通信無線会議でテラヘルツ帯の通信への活用が合意されたことだ。これまで電波天文や地球観測などの受信のみに使用されていた275~450GHzが、陸上移動通信に使用するための周波数として認められたのである。
「この割り当てで、5Gの次の世代であるBeyond 5G、6Gに向け、100Gbpsの超高速通信の可能性が見えてきました。たとえば瞬時に4K、8Kといった非常に大きな容量の動画を携帯端末に落とし込む、あるいはスタジアムのコンサートやスポーツ観戦などでの超多数接続、自動運転においても自動車だけでなく新幹線への適用、今までの光ファイバ接続を無線で代替していくなど、さまざまなことが実現します。さらに、陸上移動通信という2 次元のみならず、海洋、航空領域、衛星、深宇宙など3 次元方向への展開も見込まれます。これらを実現するには、ターゲットとしている300GHzの周波数帯で100Gbpsという高速を実現するデバイスが必要です。住友電工グループにそのデバイスを生み出してほしいですね。これまで積み重ねてきたノウハウとチャレンジングな姿勢に期待しています」(寳迫氏)
2020年春、日本でいよいよ5Gがスタートする。4Gまでが「携帯電話のためのモバイルネットワーク技術」であったのに対し、5Gは「社会を変えるモバイルネットワーク技術」といえる。あらゆるモノがインターネットにつながるIoT時代を牽引するのが5Gであり、欠かせないデバイスが「GaN HEMT」なのだ。住友電工グループは蓄積された技術力と不屈の精神で「GaNHEMT」を生み出し、世界市場で確かなプレゼンスを発揮してきた。通信規格はほぼ10年ごとに進化してきたといわれており、10年後の2030年は6Gの時代を迎える。その時を射程に置き、住友電工グループの電子デバイスの進化に向けた挑戦が続いている。