開発エピソード

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革新的な水処理モジュール「ポアフロン」を完成させ
世界の水問題と向き合い、事業化に取り組んだ半世紀におよぶ物語。
それは、住友電工の英知と情熱を結集した、挑戦の軌跡でもある。

episode1

半世紀にもおよぶ歴史を持つ
独自素材「ポアフロン」
ポアフロンとは、PTFE(四弗化エチレン樹脂)を100%使った住友電工オリジナルの多孔質材料。開発の歴史は長く、1962年にはPTFE延伸加工技術で特許を取得している。特徴は4つ。まず、耐薬品性に優れていること。PVDF(二弗化エチレン樹脂)やPE(ポリエチレン)に比べて化学的安定性が高く、ほとんどすべての酸、アルカリ、溶剤に対しても侵されることはない。第2に、強度が高いこと。これにより、長期間の使用が可能になる。
第3に、気孔率が高いこと。汎用プラスチックでは最高とされ、高い透水性という性能を生み出している。そして最後に、耐熱性。膜ろ過で使用した場合、最高で200℃にも耐えることができる。これらの特性から、ポアフロンは平膜製品に加工され、化学分析や試薬用途、半導体や液晶の製造工程における高純度薬液用途で用いられてきた。また、電線の被覆や人工血管など、特殊な用途で使われる高付加価値製品という側面も持っていた。

episode2

水にこそポアフロンの未来がある!
ある時、「PEを使った膜モジュールによる水処理」の報告が、技術雑誌に掲載されていた。そこには、膜モジュールの課題として強度や耐薬品性が提起されていたのだ。強度や耐薬品性はポアフロンの特性そのもの。水不足や水質汚染は当時から世界中でにわかに問題になっており、市場性も十分。早速、ある技術者はサンプル品を持って、水処理装置メーカーを訪ね歩き、興味を示したメーカーでフィールドテストを行うことに。ところが、結果は惨憺たるもの。予想外のスピードで目詰まりを起こし、流水量は従来品以下という結果に。
早速、新たな試作品作りに着手した。孔径が大きく透過性のよい中空糸膜の外側に、さらに孔径が小さく極薄の同じくポアフロンの層を設けて一体化させるという、複合構造を新たに採用。ろ過層となる外側のポアフロンは孔径0.1μm、支持層となる内側は孔径2μmで気孔率は80%。「PTFE複合中空糸膜」と名づけられたこの構造は、流量と強度を高い次元で両立させた。さらに改良が重ねられ、流量は従来品の約4倍、コストは1/4までになる。
この技術をもたらしたのは、住友電工の電線メーカーとしての顔でもある。内部の金属線と、外部の絶縁用被膜などからなる電線は、PTFE複合中空糸膜の構造と重なり合う。新コンセプトによる試作品作りの段階で、開発メンバーは電線を扱う事業部に足を運び、電線の作り方を学んだ。また、装置も借り受けて自分たちで製造を行い、量産技術への道筋もつけた。

episode3

韓国の大手建設会社でポアフロンが採用!
水処理技術が大きな前進を遂げたころ、1人の韓国人商社マンがメンバーのもとを訪れた。彼が目指していたのは、同じポアフロンでも衣料用のポアフロンシートなどの韓国国内での販売。しかし開発メンバーは、進展中の水処理技術を強く推薦する。「そこまで言うなら」と彼も提案を受け入れ、韓国での営業活動に乗り出すことに。
商社マンは、車にサンプルの水処理モジュールを積み込み、韓国の北から南へと、メーカーを訪ね歩いた。その結果は、予想以上の反響だった。というのも、韓国では下水処理が国を挙げての課題となっていたのだ。水処理装置メーカーも技術開発を進めており、そこでは競合他社のモジュールがテストされていた。しかし、メーカーを満足させる性能には達していなかった。そんな中に持ち込まれたポアフロン水処理モジュール。メーカーは大いに興味を持った。そしてその日はやって来た。韓国の大手建設会社である大宇E&Tが、シンピョンに建設する下水処理場他数箇所に住友電工の水処理用ポアフロン膜モジュールを採用することを決めたのだ。

episode4

遂に、実機搭載の
水処理モジュールが完成!
シンピョン下水処理場含め、採用が決まった下水処理の必要処理能力は日量合計約10,000㎥クラス。当然、そこに用いる水処理モジュールも試作品レベルとは規模が違う。また、微生物を使った下水処理方法との組み合わせも最適化を図らなければいけない。実機搭載に向け、なすべきことは山積していた。当初、処理できる流量は目標に届かなかった。この原因は水処理用の中空糸膜の性能そのものではなく、中空糸膜の配列など、全体の組立構造にあった。どのように中空糸膜を配置すれば処理能力を最大化できるか。手作業による試行錯誤を繰り返し、最適な構造を探し続けた。
この過程で大きな問題となったのは、評価を行うための排水は韓国の実際のものを使わなければいけなかったことだ。日本でサンプルを作っては現地へ運んで実験を行い、それを持ち帰って再び日本で分析を行うというサイクルを繰り返し、ついにポアフロンは実機搭載の水処理モジュールとして完成した。

水処理技術の新たなスタンダードを確立した「ポアフロン」。

その活躍のフィールドは、水処理モジュールから
今新たに、ワンストップソリューションという次代のステージへ。

世界の水問題の解決に向け、住友電工の挑戦は、これからも続く・・・。