新興国の人口増加や都市化、工業化とともに地球規模での水不足と水質悪化が大きな問題となっています。
2003年に住友電工が製品化し販売を開始した「水処理用ポアフロン膜モジュール」。
国内外の数々の水処理施設に導入され、工場排水や生活排水の再利用や浄化などで地域社会に貢献しています。
今回はグローバルな事業展開の足がかりのひとつとなった2009年の韓国でのプロジェクトにスポットを当てました。
韓国・ソウルから南へ車を走らせること約2時間。穏やかな田園地帯の中に船の形を模した「シンピョン下水処理場」があります。ここに住友電工の水処理用ポアフロン膜モジュールが採用されています。この膜モジュールの開発者であり、プロジェクトのリーダーを務める森田に開発の背景を聞きました。「ポアフロンは電線の被覆材料で培った当社の独自技術をベースに開発したフッ素樹脂の多孔膜です。かつては半導体薬液ろ過や人工血管など特殊な用途にしか使われておらず、この素材でもっと市場が大きく、世の中の役に立つ製品が作れないかと考えたのがきっかけです」。環境ビジネスの高まりという追い風もあり2003年には環境対応製品としてポアフロン膜モジュールの販売を開始。「住友電工としてはまったくの新事業。営業とふたり、どこに売ってよいかさえ分からず、先発メーカーも多い難しい船出でした」と森田は振り返ります。
住友電工ファインポリマー株式会社 技術本部
モジュール・プロジェクト
プロジェクトリーダー 森田 徹
他に類を見ない強度と性能を備えた本製品。森田は「高強度で耐薬品性のあるポアフロンを水処理用途に適し、かつコスト競争力のある製品に仕上げたことが当社の強み」と語ります。「当社はその加工技術及び構造により補強材料を使わずに高強度を実現しました。強度はランニングコストにも関わる重要な問題です。プレゼンテーションでは実際に膜を並べて、実際にお客さまに引っ張ってもらってその強さを確かめてもらいました。そうすれば一目瞭然。特に海外においては、数字や説明を並べるよりも、わかりやすく説得力があったと思います」。住友電工のグローバルなネットワークも活用しながら、そんな製販一体となった営業努力を続けた結果、大宇E&T社が受注した2,000tクラスのシンピョン下水処理場プロジェクトへの採用が決まりました。「微生物層に膜プロセスも同時に入るMBR*というシステムです。今回は活性汚泥層を縦型に配置することで超小型化にも成功し、非常に競争力のあるシステムになりました」と森田は胸を張ります。
* MBR(Membrane Bioreactor/膜分離活性汚泥法)
活性汚泥(微生物)による有機物分解処理に膜分離を組み合わせたもの。主に有機物を含む排水の処理方法
100%PTFE(四フッ化エチレン樹脂)からなる多孔質膜をユニット化
水処理用ポアフロン膜モジュール(浸漬型)
しかしその導入にあたっては言語の違いによるコミュニケーションの問題、韓国特有の厳しい冬に対する技術的な問題などクリアすべき課題が山積みでした。また韓国の実際の排水を使用して評価する必要があったこともネックとなりました。「仕方なく日本で作ったサンプルを持参して実験をお願いする、それを持って帰って分析する、ということを繰り返しました。もう量産を始めなければ間に合わない、そんな状況になってからは少しでも時間を節約するためにモジュールを抱えて私が日本と韓国を何度も往復したものです」と森田は笑います。2mの大きな箱を抱えて、飛行機のエクストラチャージも払って。しかも実験後は独特の臭いに何度も肩身の狭い思いもしたとか。「そんなハードな時期も韓国のビジネスパートナーや営業メンバーに支えられて乗り越えられました」。
(左)MBR処理後 (右)MBR処理前
「シンピョン下水処理場」にて採取
現在、営業担当として世界を駆けめぐり拡販活動を続ける小西は製品に対する思いをこう語ります。「今、世界のあちこちで水不足・汚染が起こり、6人に1人はまともな水に接触できないという現実があります。考えてみればこれは人類が豊かで便利な生活を追求してきた結果でもあります。自分たちもその豊かさを享受してきた分、水問題の解決に貢献することで少しでも恩返しできればと思います」。また森田も「日本の膜技術は世界のトップレベルにあるのは間違いありません。そのなかで当社は、先発メーカーにない独自技術で世界の水処理事業への貢献を目指します。私たちの技術と製品で、世界の国々の水事情を変えることができるかもしれない。そんな夢と誇りを持ってこれからも努力していきたいと思っています」。
住友電工の水処理事業ミッションは、まだ始まったばかりです。
エレクトロニクス営業本部
ファインポリマー営業部
機能品営業部 ポアフロングループ長 小西 聡士