導体を束ねる集合機
産業用電線分野のケーブルの設計や開発を主管するのが産業電線事業部 技術部であり、ここでS-FREE®製品の開発主管を担っているのが上原真一である。配合開発だけでなく導体にまで開発の目を向け、ケーブル全体の「軽量化」を実現した代表製品が高強度アルミ導体溶接用ケーブルであった。銅に代え高強度アルミを導体に使用したケーブルを溶接用として国内で初めて開発。船舶や橋梁など大型構造物を製造する現場では、作業者がアーク溶接機や溶接用ケーブルを作業現場に運搬することが繰り返される。軽量化は切実に求められていた。
「産業用電線の中でも溶接用ケーブルはアルミ材料の適用が許されていますが、耐久性や強度に問題があり、多くのメーカーが頓挫してきた経緯があります。当グループは自動車用ハーネスでアルミ材採用の実績があり、それらの技術的知見を活かして従来品に比べ約50%減の軽量化を達成しました。作業負担の軽減はもちろん、引きずられても摩擦量が少なく、ケーブルの長寿命化も実現しています。また、アルミは銅よりも電気抵抗が大きいため、導体温度が高くなります。そこで耐熱性を向上させた架橋ポリオレフィンを被覆(シ-ス)に用いることで対応しました。製品化までには何度も現場にうかがって、お客様にご意見をいただきました。ただし製品化がゴールではなく、常に改良できる項目がないかについてもご意見をうかがい、より使いやすい製品に高めていきたいと考えています」(上原)
こうしたユーザーの声に寄り添って開発した製品を幅広く紹介し、当社の開発姿勢をさらに広めるべく、住友電工グループは2019年11月、「快適を、その現場に」をコンセプトとした新しい製品ブランド「S-FREE®」を立ち上げた。「S-FREE®」のネーミングには、住友事業精神(S)に則って誠心誠意対応する姿勢と、ユーザーを作業負担からできる限り解放(FREE)したいという思いが込められている。
住友電工産業電線(株)和歌山工場——。ここがS-FREE®の製造拠点である。サイズや種類の異なる300 種類以上のS-FREE®製品が製造されている。特徴の一つは、ケーブルだけでなく絶縁体などの被覆材料の生産も担っている点だ。
工場を率いる工場長の谷正樹は「今求められているのは、スピーディなモノづくりによる生産性の向上です。IoT*の活用を含めた製造技術の革新、情報共有、新たな品質管理法など、社員も組織も柔軟に新しいことにチャレンジしています」と語る。
製品を実際のカタチに具現化するのが電線技術部 ゴム電線技術グループの向山光昭だ。
「開発された材料ごとに最適で安定した製造・品質条件を決める必要があります。常に現場でモノを見て、設備能力を見極めながら新しい条件を詰めていくことの積み重ねです。やはり新しいS-FREE®製品をリリースできた時にやりがいを感じています」(向山)
製造グループの栗栖孝幸の目は、製造している製品に変化がないかを常に厳しく監視しつつ、現場の作業者の声を聞くことで、安定したモノづくりを実現している。
「高い品質で安定した製品を製造することが我がグループのミッションです。徹底して数値管理を行うことで、品質の安定と効率化を求め続け、画像監視装置などによる品質管理のデジタル化も進めています。一方、やはり大切なのは現場の作業者の目。変化に対する感性を高め、経験を継承することも大切にしたいと考えています」(栗栖)
生産管理グループの西村忠は、納期管理や在庫調整、物流など、ユーザーに直接繋がる業務を担当しており、その柔軟な対応で顧客満足度の向上に寄与したいと言う。
「当社の製造面での強みは在庫ラインアップの充実度と、短納期での受注生産です。多品種少量の製品群ですが、できるだけ短納期でお届けするために、きめ細かな生産管理を心がけています。お客様の要望する長さへの切断対応や物流対応にも柔軟性が必要です。製品の特性だけでなく、我々が提供するサービスのすべてが、S-FREE®が目指す快適な現場の実現に寄与する重要なことだと考えています」(西村)
工場長の谷に今後の指針を語ってもらった。
「S-FREE®の新たな市場を開拓し、ゴム電線分野でトップシェアまで登りつめたい。そのためにもお客様の要望に素早く、かつ幅広く応えられるように生産現場を進化させていきたい」(谷)
* Internet of Things