トップメッセージ
悪貨に良貨を駆逐させないために
少し前に日本経済新聞に連載された、プロ野球の王貞治さんの回顧録をお読みになった方もおられることと存じます。選手時代はスーパースターであった王さんも、引退後に歩んだ指導者の道は順風満帆ではありませんでした。巨人の監督を退いた後に采配をとった福岡ダイエーホークス(現 福岡ソフトバンクホークス)も、就任当初は成績が低迷し、選手が乗るバスがファンに取り囲まれ、生卵を投げつけられるという騒ぎまであったそうです。
王さんは、当時の一番の問題は「負け慣れ、負け体質」であった、と述懐しておられます。何年も優勝争いから遠ざかっていた組織からは、厳しさがなくなっていたのでしょう。その後、再生への手ごたえを感じ始めたのは、選手の世代交代も進んだ2年ぐらい経ってからだったそうです。一軍・二軍合わせて60~70人程度の組織でも、いったん染みついた「負け体質」を払拭し上向きに転ずるには、意識改革と新陳代謝のために相当の時間が必要だったのだろうと理解しました。
「組織」は何らかの目的、意志をもった集まりですが、高い士気を長く維持するには、メンバーの内面から湧きあがって来るモチベーション、つまり「内発的な動機」が必要であります。動機が薄まれば、「悪貨は良貨を駆逐する」との警句の通り、安きに流れてしまいます。その結果、「ぬるま湯」的な居心地の良さにかまけて、「忍び寄る危機」に気がつかなかった、というのはよく聞く話です。
とは言いながらも、「言うは易く行うは難し」。大げさな題をつけてしまいましたが、組織の「内発的な動機づけ」を導く魔法の杖があるはずもありません。組織のリーダーは、地道に三現主義で現場をよく見て、メンバーと密にコミュニケーションするしかないのではないでしょうか。一方で、決断に際しては、冷静さと厳しさを忘れぬように、と自らにも言い聞かせております。