特集 2017年1月号(Vol.472)
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住友電工は、佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター*1に当社グループ専用の分析設備「放射光ビームライン」を設置し、昨年11月に稼働しました。今回の特集では本設備の概要と放射光分析でどのようなことが分かるのかについてご紹介します。
- *1
- 産業利用を主目的に2006年より産官学の利用者に開かれた放射光施設。佐賀県が自治体としてわが国で初めて鳥栖市に設置。(公財)佐賀県地域産業支援センターが管理運営をおこなっています。
1.放射光とは…?
放射光とは、大型の加速器で発生させる非常に強い人工の光です。光には、私たちが普段見ている可視光のほかにもいろいろな波長のものがあります。例えば、波長の長い赤外線は光通信などに用いられます。一方、波長がきわめて短いX線を材料に照射すると、材料からさまざまな信号が発生します。それらを解析することで、材料の構造や性質を原子レベルで分析することができます。
X線を使った分析は社内にある小型の装置でも実施できますが、放射光施設では、小型の装置よりも1万倍以上の高強度X線が使用でき、より詳細な解析が可能になります。
2.ビームラインとは…?
ビームラインとは、(1)加速器から発生させたX線ビームを整形する輸送部、(2)分析をおこなう測定機器、から構成される実験設備です。これまで当社はSPring-8*2などの施設で、ほかの利用者と共用のビームラインを利用してきましたが、今回、九州シンクロトロン光研究センター内に当社グループ専用のビームラインの建設を進め、昨年11月から稼働しました。これにより課題であった利用時間不足を解消し、増加する分析ニーズに迅速に対応できるようになりました。今後、専用ビームラインを活用して製造プロセスや製品特性を革新的に改善し、低コストかつ高品質な製品をより早く提供していきます。
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- *2
- 兵庫県の播磨科学公園都市にある放射光施設。
3.どのような実験がおこなわれるのですか?
これまでに当社が同様の放射光設備で実施した実験内容を紹介します。
【実験1】ビスマス系高温超電導線材の臨界電流性能向上
当社のビスマス系超電導線材は、電流が流れるビスマス系酸化物を銀シースで被覆する構造になっています。酸化物は細かい結晶粒子の集まりですが、異相(異物となる結晶粒子)が多い、あるいは、低配向(個々の粒子の方向がそろっていない状態)が発生すると、超電導線全体に流れる最大の電流(臨界電流性能)が低下します。放射光で分析した結果、銀シース内の異相や低配向の発生は、製造条件で大きく変化することが分かり、それらを低減できる条件を確立しました。その結果、世界最高の臨界電流を実現しています。
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【実験2】超硬工具用タングステン原料の低コストリサイクル技術開発
タングステンは、熱に強く非常に硬い金属で、当社では切削工具などに利用しています。年々需要が増加する一方で資源埋蔵量が少なく、将来にわたる原料の安定確保に向け、使用済み工具からタングステンを高効率かつ低コストでリサイクルする必要がありました。当社では工具を一旦溶解した後にイオン交換樹脂にタングステンを吸着させて回収しており、溶解液中のタングステンの元素状態を放射光で分析し、より多くのタングステンを吸着できる反応条件を見出しました。これにより輸入原料よりも低コストでタングステンをリサイクルすることに成功しています。

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タングステン吸着
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原料としてリサイクル
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当社グループではほかにも、自動車用ワイヤーハーネス、無線基地局用デバイス、フレキシブルプリント回路など幅広い分野の製品開発に専用ビームラインを活用していきます。