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プレスリリース

長距離大容量伝送に適した結合型マルチコア光ファイバを開発

製品・技術情報

2016年3月25日
住友電気工業株式会社

当社は、長距離大容量伝送用途に適した新型の結合型マルチコア光ファイバを開発し、空間分割多重用光ファイバにおける伝送損失と空間モード分散の世界記録を更新しました。

スマートフォンなどの急速な普及やデータセンターの発達によって、長距離伝送系の通信トラフィックは増大し続けており、伝送損失*1の低いシングルモードファイバ(SMF)*2を用いた伝送容量の拡大が図られています。一方で、さらに大幅な容量の拡大を実現するために、1本の光ファイバの中に複数のコアを内蔵するマルチコアファイバ(MCF)*2などを用いて信号を伝送する空間分割多重(SDM)と言われる技術の研究が盛んに行われており、大容量伝送システムを実現する次世代光ファイバとして期待されております。

今回、純石英コアを4つ内蔵する結合型MCF*2を開発し、SDM用光ファイバにおける世界記録を更新する伝送損失 0.158dB/km(波長1550nm)及び空間モード分散*3 6.1 ps/√km*4(波長1550nm付近)を実現いたしました。
伝送損失が実用化されている極低損失な光ファイバと同程度に低いことと、空間モード分散を従来のSDM用光ファイバの5分の1程度まで低減したことで、伝送容量を従来ファイバの4倍程度まで増大させることが期待されます。さらに、今回開発した光ファイバは、現在標準的に広く用いられている125µmのクラッド径を有することから、既存設計の光ファイバケーブルに適用することができ、また、汎用光ファイバ*2同等の高い信頼性が期待されます。

長距離大容量伝送に適した結合型マルチコア光ファイバを開発
長距離大容量伝送に適した結合型マルチコア光ファイバを開発
長距離大容量伝送に適した結合型マルチコア光ファイバを開発
今回開発した125µmクラッド結合型4コアファイバ(左)、伝送損失特性(中央)、空間モード分散のファイバ長依存性(右)

当社は2009年よりMCFの先駆的な研究開発に取り組み、成果を上げてきました*5。また、1980年代より純石英コアファイバの開発製造を行い、海底ケーブル網の発展に貢献してきました*6。今回の成果は、これらの研究開発を融合して高めることで得られています。

今後、今回の開発を含め様々なMCFについて、より実使用状態に近い環境下での性能評価や量産技術開発など、引き続き研究開発を続けてまいります。
なお、今回の成果は、米国アナハイムで2016年3月20日(日)~24日(木)の日程で開催されている世界最大規模の光ファイバ通信関係の国際会議であるOptical Fiber Communication Conference (OFC) 2016で、ポストデッドラインペーパー*7として採択され、現地時間3月24日(18時)発表いたします。


*1 伝送損失
光が光ファイバ内を進む際に、光の一部が散乱や吸収によって減衰する割合であり、低ければ低いほどより遠くに光信号を届ける。商用で世界で最も低い伝送損失を持つ海底用の極低伝送損失光ファイバでは、波長1550nmにおいて0.154dB/kmが実現されている。汎用シングルモードファイバでは、0.185dB/km前後が一般的である。従来のSDM用光ファイバで伝送損失(コア平均)の記録は0.168dB/kmであった。

*2 光ファイバの種類

  主な特徴
シングルモードファイバ(SMF) コアが1つで、光の通り道(モード)が1つしかないタイプの光ファイバ。
汎用光ファイバ SMFを含め、各種通信用に標準化された光ファイバ。クラッド(ガラス)は125µmが標準となっている。
マルチコアファイバ(MCF) 1本のファイバの中に、複数のコアを内蔵する光ファイバ。非結合型MCFと結合型MCFという2つのタイプに分けられる。
非結合型MCF 各コアを独立した導波路として用いるタイプのMCF。SMFと同様の信号処理で通信を行うために、コア間クロストークの抑圧する必要があり、コア間隔、さらには、クラッド径が大きくなる傾向がある。
結合型MCF 複数のコアを"結合"した一体の導波路として用いるタイプのMCF。コア間のクロストークは許容され、MIMO信号処理*8で補償される(元の個別信号に復元される)。非結合型よりもコア間隔を小さくできるため、小さなクラッド径で、より多くのコアを内蔵することができる。
マルチモードファイバ(MMF) 大きな1つのコアの中に、複数の光の通り道(モード)があるタイプの光ファイバ。光ファイバ同士の接続などの際にモード間クロストークが生じるため、やはりMIMO信号処理によるクロストーク補償が必要。

*3 空間モード分散
光ファイバ内に複数の空間チャネル(光の通り道)がある場合、光がどこを通って来たかによって到達時間に差が生じる。これによる信号光のパルスの時間軸上での広がり具合のこと。空間モード分散が大きいほどデジタル信号処理の計算負荷が大きくなることから、小さいことが望ましい。

*4 空間モード分散の累積の仕方
結合型MCFでは伝搬中にランダムなモード結合が起こるため、信号パルスの時間広がりが伝送距離の平方根に比例して緩やかに増加する(単位はps/√kmやns/√kmとなり、10,000km伝送時の空間モード分散は、1km伝送時の10,000倍ではなく100倍になる)。一方で、MMFなどでは、モード間の結合が弱いため、パルスの時間広がり(psやns)は伝送距離(km)に比例して増加する。(単位はps/kmやns/kmとなり、10,000km伝送時の空間モード分散は、1km伝送時の10,000倍になる)。

*5 関連プレスリリース
情報通信研究機構(NICT),光ファイバ1本の伝送容量109テラビットの世界記録を樹立,2011年3月
NICT,当社,横浜国立大学,オプトクエスト,光ファイバの限界突破に挑戦,2015年3月
当社,短距離光伝送に適した新型マルチコア光ファイバを開発,2015年3月
NICT,当社,RAM Photonics,光ファイバの最大伝送容量の世界記録を更新、2.15ペタビット毎秒を達成,2015年10月

*6 関連プレスリリース
当社,光ファイバの低損失世界記録を更新、および極低損失光ファイバの出荷開始,2013年3月
当社,光産業技術振興協会「第31回櫻井健二郎氏記念賞」を受賞,2016年1月

*7 ポストデッドラインペーパー
一般論文投稿の締切後(ポストデッドライン)に受け付けられる最新研究成果に関する投稿論文で、高く評価されたもののみが会議にて報告される。

*8 MIMO信号処理(MIMO DSP)
多入力多出力(multiple-input-multiple-output: MIMO)の伝送システムにおいて、チャネル間で混じった信号を元の個別の信号に復元する計算処理(デジタル信号処理: DSP)のことを、MIMO DSPという。SMFによるデジタルコヒーレント通信においても、直交する2偏波間のクロストークを補償する為に既に用いられており、SDMにおいては更にコア間/モード間のクロストークを補償する為に用いられる。

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