Project story
#01

環境エネルギー事業プロジェクト ウィンドファームつがる

Environment&Energy

prologue

再生可能エネルギーの可能性を広げる
国内最大規模の風力発電事業

住友電工グループは、青森県つがる市で展開された国内最大規模の風力発電事業に参画。農道沿いの広大なエリアに配置された総38基の風車を連系先変電所へとつなぐ、全長約34kmにもなる地中送電ルートを整備した。前例のない取り組みのなかで、2人の担当者が得たものとは──。

  • エネルギーソリューション営業部
    第一営業部

    杉浦 正典
    2007年入社
  • 電力プロジェクト事業部
    エネルギーソリューション部

    宇喜多 航
    2017年入社

※所属部署名等は取材当時のものとなります。

SECTION #01

section #01

風の力で、電気をつくる

世界の平均気温は上昇し続けている。18世紀後半の産業革命以降、大量の化石燃料が消費され、大気中の温室効果ガス濃度が急激に上昇したことが地球温暖化の要因であると考えられている。こうしたなか、2015年に採択されたパリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より充分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすること、また、そのためにできるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとることなどが合意された。

CO2をはじめとした温室効果ガス排出量を世界全体で実質的にゼロにする脱炭素社会の実現には、太陽光や風力、水力、地熱、バイオマスといった再生可能エネルギーの導入が必要不可欠だ。日本においては、パリ協定採択の3年前にあたる2012年に、固定価格買取制度(FIT)が施行されている。固定価格買取制度は、再生可能エネルギーでつくられた電気を国が定めた価格で一定期間電力会社が買い取ることを義務づける、というもの。これにより、国内でも導入の機運が高まることになった。

住友電工グループでは、再生可能エネルギーのひとつである風力に着目し、青森県つがる市で展開された国内最大規模の風力発電事業に参画。農道沿いの広大なエリアに配置された総38基の風車を連系先変電所へとつなぐ、全長約34kmにもなる地中送電ルートを整備した。送変電設備一体の設計は社内で前例のない取り組みであったため、エネルギーソリューション営業部の杉浦は、各種検討をするたびに壁にぶつかりながらも、関係者の協力を得つつそれを乗り越えていった。

SECTION #02

section #02

ものを売るだけが、営業の仕事ではない

杉浦が担うのは、大規模風力発電を主とした再生可能エネルギー案件に対し、送電ケーブルなどの環境エネルギー事業製品を提案・販売する営業業務である。今回のウィンドファームつがる風力発電事業(発電所名称:ウィンドファームつがる)においては、グループ会社と連携することで、送変電設備の製品提供や工事を一括で対応するパッケージ提案を展開。従来のケーブル技術だけではなく、電気システム設計や系統解析技術を組み合わせたグループの総合力で、顧客の課題解決にあたった。

変電機器はグループ会社の製品であり、住友電工が送変電設備を一体で提案・販売することは初めての取り組みだった。また、顧客である大手ゼネコンにとっても、100MW(メガワット)クラスの送電システムを取り扱うのは初めての経験であり、送電・変電の双方にわたる専門性の高い提案を理解頂くことに苦労した。なにか確認事項が発生した際にも、相手方にそのまま質問を投げたとしても、おそらく有効な回答は得られないだろう。一面的なものの見方をしていては、現場が混乱してしまう。プロジェクトの背景は?顧客のメリット・デメリットは?多角的な視点から情報の交通整理を行い、全体を調整する必要があった。

そんな杉浦がいつも心にとめていたのは、電線・エネルギー本部の技師長であり、本プロジェクトでプロジェクトマネージャーを務めるO氏の「常にお客様の立場に立ってものを考えないといけないよ」という言葉だ。O氏とは共に初期段階からこのプロジェクト携わってきた同士であり、杉浦にとってその言葉は特別だった。顧客との間に利害関係は存在するものの、決して相反関係にはなく、国内最大規模の風力発電事業の成功という点で思いは一致しているはずである。顧客の一番の理解者として、手を取り合い、力強くプロジェクトを推進させていかなければならない。そして、ただ単にものを売るのが営業の仕事ではないんだと、自らに言い聞かせた。

SECTION #03

section #03

点と点を結んで、線にする

電力プロジェクト事業部に所属する宇喜多は、入社2年目の2018年4月、本プロジェクトに加わった。グループ会社を含む社内折衝を主に担当し、毎日のように発生する関係部署や協力会社との調整に奔走することになる。

小さいころから環境問題に興味があり、大学院では再生可能エネルギーの需要と供給のバランスが電力系統に与える影響に関する研究を行っていた。しかし就職にあたっては、机上シミュレーションではなく、実際に目で見て手で触れることのできるモノづくりの視点から環境問題に貢献したい、という思いが強まる。そして住友電工に入社し、本プロジェクトに携わることで、彼はその希望を実現したのだった。グループ会社の変電設備機器据付工事が始まった2019年4月から月2回のペースで青森に出張し、設備引き渡し前の2ヶ月間に関しては現場常駐の体制に。通常、設計担当が現場常駐することは稀だが、前例のないプロジェクトだったこともあり、顧客折衝や現地試験の助成など、顧客とグループ会社を結ぶ橋渡しの役割を務めた。

特にたいへんだったのは、全長約34kmもの長距離地中送電よって発生した課題の解決である。地中に埋設する電力ケーブルはその構造から、架空送電線に比べてケーブルに貯まる電気の量が大きくなる。これを静電容量や充電容量と呼び、ケーブルが長距離におよぶため、極めて大きな値となる。この影響として、事故時の遮断器損傷や、規定電圧変動範囲逸脱、高調波共振の発生などがあげられる。このような課題を専門家のグループ会社と協力し、対策機器の設置や電力会社との運用協議により解決し、系統連系が実現する運びとなった。

最初から解決策がわかっているわけではない。プロジェクトの意義や責任の所在、あるいはリスク管理について、辛辣な意見が宇喜多にぶつけられることもあった。それでも関係者と協議を重ねながら、最適解を導き出していく。決して物事を点でとらえてはいけない。点と点を結んで線にすると、やがて答えは見えてくる。折衝担当の自分は、そのいろんな線が集まる中心にいないといけないのだ。今回のプロジェクトを通して、彼はそのことを痛感した。

SECTION #04

section #04

高い技術力と強い意志

受電日は2019年8月1日に設定されていた。工事計画届出の対象となる設備は法定自主検査(使用前自主検査)が義務づけられており、本工事は系統課電による試充電試験が計画されていた。本試験の完了をもって設備を引き渡し、受電(系統とつながった)状態となるため、発電所建設の大きな節目となる。

その日を迎えるにあたり、顧客であるゼネコンの現場所長からは「住友電工さんと一緒だからこそ、成し遂げることができたプロジェクだと思う」という言葉があった。イレギュラーを挙げればきりがない国内最大規模の風力発電事業を完工に導いたのは、住友電工の高い技術力と、マイルストーン(プロジェクトや作業の中間目標地点や節目のポイント地点のこと)を意地でも守るという強い意志も一助となったに違いない。

次なるプロジェクトへ向け杉浦は、顧客満足の最大化に軸足を置いた調整力にさらに磨きをかける。一方の宇喜多は、社内折衝だけではなく対外折衝にも業務の幅を広げ、ただ手を動かす人ではなくプロジェクト全体の舵とりができる人材になることを目指す。

風力発電をはじめとした再生可能エネルギーの市場は、まだまだ新興市場だ。今回のウィンドファームつがるが資金石となり、全国各地、さらには全世界へと広がっていくことが期待されている。

Environment&Energy