Project story
#02

情報通信事業プロジェクト 5Gを支える電子デバイス

Info communications

prologue

社会や生活が変わる5G時代
「つながる」をもっと

無線で通信をするためのアクセス技術が進化し、携帯電話やスマートフォンの性能は大きく向上。1Gから世代ごとに方式が変わり、いよいよ5Gが登場した。電子デバイス開発に携わるエンジニアの挑戦もまた、世代を重ねるごとにアップデートされていく。

  • 住友電工デバイス・
    イノベーション株式会社

    水江 千帆子
    2011年入社
  • 住友電工デバイス・
    イノベーション株式会社

    川崎 賢人
    2017年入社
  • 住友電工デバイス・
    イノベーション株式会社

    加藤 弘晃
    2015年入社
  • 伝送デバイス研究所
    5G無線研究部

    濱野 皓志
    2018年入社

※所属部署名等は取材当時のものとなります。

SECTION #01

section #01

世代を重ねるごとに、挑戦をアップデート

2020年3月、日本で5Gのサービスが開始された。これまで第1世代(1G)から第4世代(4G)まで世代を追って方式が変わり、携帯電話やスマートフォンの性能向上に大きく貢献してきたことは周知の事実である。4Gの100倍の通信速度といわれる第5世代=5G(5th Generation)では、高速・大容量に加え、低遅延や同時接続が実現することによって、人が持つデバイスからIoTまで、幅広いニーズへの対応が期待されている。

住友電工グループは、5G時代を支える電子デバイスであり極めて高い性能を有するトランジスタ「GaN HEMT」を、2005年、世界に先駆けて市場に投入した。HEMTは「High Electron Mobility Transistor(高電子移動度トランジスタ)」の略であり、それをベースに、より優れた材料物性を持つ窒化ガリウム(GaN)と組み合わせたものがGaN HEMTである。

その研究開発の道のりは、決して平坦なものではなかった。他社のシリコン製トランジスタが市場を席巻していた時期は、辛酸をなめることにもなった。しかし今やGaN HEMTは、世界市場において確固たる地位を築いている。それは住友電工エンジニアの高い技術力と豊かな発想力、加えてあきらめない精神力がもたらした成果だといえた。

たとえば、実験・評価・分析を繰り返して最適な工程を開発するプロセス開発では、その製品のポテンシャルをいかに引き出すかが重要となり、製品開発では、半導体物理や電気回路設計、熱設計、統計学といった広範囲の知識が求められる。エンジニアの挑戦もまた、世代を重ねるごとにアップデートされていった。

SECTION #02

section #02

製品の品質を落とすわけにはいかない

プロセス開発を担当する加藤が、新しい成膜技術を採用する際に苦労したのは、製品の信頼性確保だった。メーカーとして製品を販売する以上、一定期間の保証の責任を負わなければならない。しかし、それが10年間だとして、実際に10年の期間をかけて治験を行うわけにはいかなかった。過酷な条件を自ら設定する必要がある。

そんなとき加藤が意識していたのは、ひとつの事象にとらわれすぎないことだ。視野が狭くなると、落とし穴に気づかない。製品の故障およびそれにより発生した事故の原因を分析する手法である「故障の木解析(FTA:Fault Tree Analysis)」を実践し、考えられる原因をすべて書き出したうえで、それらを一つひとつ、つぶしていった。

製品開発を担う川崎もまた、品質の担保を徹底した。製品開発においては具体的な顧客が存在し、顧客からは当然、仕様や価格、納期に関するシビアな要求がある。スケジュールがタイトだからといって、製品の品質を落とすことは絶対にしてはいけなかった。

ある案件で増産体制の構築が必要になった際、川崎は海外工場に業務を委託することにした。お互い不慣れではあるものの、英語で現地のエンジニアとコミュニケーションをとり、タイムリーに課題を解決していく。相手にとってわかりにくいと思われる内容を、いかにわかりやすく説明するか、ということに心を砕いた。そして、年次や経験に関係なく、自分が正しいと思ったことについて意見を通すのが、彼のポリシーである。妥協して安易にすませることは決してしなかった。

SECTION #03

section #03

それぞれの働き方で、技術力を高める

各部署が所有する技術について吟味し、顧客の要求に対してどのような性能を提案できるのか、取りまとめを行うのが水江の仕事だ。キックオフ会議では、量産のプロである製造部から、顧客要求を最も理解している開発部など、多岐にわたる部門の社員を前にプロジェクトの全体像を説明し、全員の意識統一を図る。モノづくりに携わる人間は、基本的に根拠データがないと動かない。データを積み上げたうえで、エビデンス(仮説の検証結果、効果を証明するもの)を提出する必要があった。

現在、産休・育休を経て職場復帰した彼女は、子どもがまだ小さいため、定時勤務をしている。今でも常に心がけているのは、絶対に横着しない、ということだ。タスクに追われて手を抜くと、正確なデータを収集することができない。横着した瞬間、論理的ではなくなってしまうのだ。時間に制限があるからこそ、そこに意識を集中した。

一方、伝送デバイス研究所の濱野は、携帯電話基地局向けGaNアナログ増幅器の低消費電力化のために、歪補償技術の開発に取り組んでいる。歪補償技術とは、通信品質の劣化要因となる歪みを補償する回路技術のことだ。歪特性については、EVMと呼ばれるデジタル信号処理前後の性能が評価されているため、信号処理技術の観点から顧客満足度の向上に努める。

また、彼はマイクロ波研究会の委員であり、さまざまな企業や大学との技術交流に力を注ぐ側面も持つ。自分が携わるプロジェクトの内容を学会の場で発表することが、モチベーションのひとつになっていた。目の前のミッションを一つひとつクリアしながら、その先の目標も同時に設定する。

SECTION #04

section #04

Beyond 5Gに向けた
次世代型デバイスの挑戦

4Gまでが「携帯電話のためのモバイルネットワーク技術」であったのに対し、5Gは「社会を変えるモバイルネットワーク技術」といえる。あらゆるモノがインターネットにつながるIoT時代を牽引するのが5Gであり、欠かせないデバイスがGaN HEMTとなる。

住友電工グループは蓄積された技術力と不屈の精神で「GaN HEMT」を生み出し、世界市場で確かなプレゼンスを発揮してきた。通信規格はほぼ10年ごとに進化してきたといわれており、2030年にはBeyond 5Gの時代を迎える。またカーボンフリーは極めて重要なアイテムであり、エンジニアたちはその貢献のために努力を惜しまない。

プロセスの微細化が鍵となるこの新規プロジェクトにおいて、加藤は技術開発のとりまとめを行うプロジェクトリーダーを務める。また、川崎と水江はマイクロ波エンジニアリングのプロとして海外にも活躍の場を広げ、濱野は基地局だけではなく学会を通して5Gの可能性を広げていく。

社会や生活を変えるような技術はいつだって、そんな小さな挑戦の集合体から生み出されるものなのである。

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